瀬戸内海に浮かぶ離島の小さな町に異変が起きている。町長のお金の問題をきっかけに議会が混乱し、26日投開票の町長選には現職を含む5人が名乗りを上げる事態に。一体どうしたというのか――。
波乱のきっかけは現職の自己破産
政争の舞台は香川県土庄町(人口約1万3000人)。小豆島に二つある町の一つで、潮の満ち引きで砂の道が消えたり現れたりする「エンジェルロード」が全国的に知られ、島の玄関口の港には観光客が訪れる。周辺の豊島など3島も同町に含まれる。
波乱のきっかけは2020年2月に起きた。三枝邦彦町長(63)が自己破産を申請したのだ。父から受け継ぎ13年まで社長を務めたホテルの連帯保証人になっており、建設費など約5億5000万円の借金が残っていた。町内の協同組合の連帯保証人にもなっていたが組合が破綻し、自己破産を決めた。三枝氏は町議会議長を経て13年の町長選で初当選し、17年は無投票で再選している。「金融機関にそんたくする町政になってはいけない。個人の問題と町長の職務を切り離すために自己破産を選んだ」という。
現職首長の自己破産に町政は揺れた。議会は「猛省を強く促すとともに町民への信頼を早期に回復するべきだ」として、町長に行動を求める問責決議案を同年6月に可決。三枝氏は住民向けに説明する機会を設けたが、町民からは「説明が不十分だ」との声が上がり、不信感を拭い去ることはできなかった。
それでも三枝町長は21年6月、3期目を目指し町長選に立候補すると議会で表明した。取材に対し「自分の責任でこうなったわけではないし、町民に迷惑をかけたわけでもない」と出馬の正当性を強調した。
するとその5日後、かつて町長選で三枝氏を支援したうどん製造業の大峯茂樹氏(73)が立候補を発表。10月には保守系町議の支援を受けた岡野能之氏(50)が町議を辞して出馬を表明した。その翌月には岡本経治町議(59)=11月17日辞職=も名乗りを上げ、新人同士が保守分裂の構図に。さらに群馬県出身の移住者で豊島在住の茂木邦夫町議(35)=12月15日辞職=も出馬を決めたため、定数わずか12人の町議会から3人も出ることになった。
「どの候補ともつながり」困惑の声も
町民の受け止めはさまざまだ。「5人も候補がいるのは面白い。無投票や一騎打ちよりも盛り上がるのではないか」(50代男性)、「1、2人よりも5人の方が積極的に選ぼうという気持ちになる」(30代女性)と歓迎する声がある一方、「誰を選んでいいか分からず正直困っている。小さな町なのでどの候補ともつながりがあり、こっちを立てればあっちが立たない状況」(60代女性)と困惑する声も。5人の中で最年少の茂木氏は「しがらみなく声を上げられる外からの人間が必要だ」と訴える。
12月2日夜、町立公民館では公開討論会が開かれ、約340人の町民らが見守るなか、5人が壇上に並んで各自の重点政策を発表した。当初は議論を交わす形式を想定していたが、立候補予定者が多くて時間が足りず、発表スタイルに切り替えたという。討論会を主催した小豆島青年会議所の担当者は「5人出馬は前代未聞ではないか」と驚く。
参加した80代女性は「自己破産した三枝氏が出馬するというだけでもびっくりだが、討論会でその問題に触れなかった。選挙に必要なお金は一体どこが出しているのか」と納得できない様子だった。翌日の町議会は、三枝氏に対し「町民の信頼のために多額の借り入れの使途を明らかにすべきだ」などと問題の追及を続けた。
立候補予定者が増えたのは、こうした現職への不信感や町政への疑問が膨らんだ結果と言える。ただ、60代の町民男性は「議会が候補を一本化できず、3人も町議を辞めて出馬するとはどういうつもりか」と議会への不信感も募らせていた。
土庄町長選は21日に告示される。公開討論会の内容はユーチューブ(https://www.youtube.com/watch?v=dMyh9DpAmR8)で閲覧できる。【西本紗保美】