「生きていて」 患者の思い届かず 院長死亡確認 大阪ビル放火

「先生、どうか生きていて」。患者たちの悲痛な思いは届かなかった。大阪市北区の雑居ビルで起きた放火殺人事件で19日、火元となったクリニックの院長、西沢弘太郎さん(49)の死亡が確認された。長年、精神科医として心の不調に悩む人々に向き合い、職場復帰を支えてきた西沢さん。「自分にとって大きな存在だった」。無事を祈っていた患者らは悲報に言葉を失った。
知人らによると、西沢さんは埼玉医科大卒業後に近畿大医学部に勤務。奈良県内の民間病院で働いた後、2015年に大阪・北新地の一角に「西梅田こころとからだのクリニック」を開業した。JR大阪駅前で、平日は午後10時まで診療。西沢さんはクリニックのホームページに「都心部で夜間でも受診できるクリニックがあればと思った」とつづっていた。西沢さんは約600人の患者を診るかたわら、大阪府松原市内の心療内科にも顔を出し、企業の産業医も務めていたという。
西沢さんと親交のある社会保険労務士の土橋和真さん(46)は「もともと内科医だったが、働きながら体調を崩す患者の姿を見て精神科医になった」と話す。昼夜働きづめの西沢さんの体を気づかっても「大丈夫です」と疲れを顔に出さなかったという。土橋さんは「患者さん思いの優しい先生。患者の社会復帰を望む正義感とポリシーを持った人だった」と話した。
体調を崩した人が職場復帰を目指す「リワーク」に力を入れ、院内ではさまざまなプログラムを用意。患者にとって西沢さんとクリニックは心のよりどころだった。
クリニックに通っていた大阪市内の女性(30)は「丁寧な診察で対応が良い先生だった。事件後も無事であることを信じ、別のクリニックを探さないでいた。なぜ、人のために尽くしてきた先生が巻き込まれないといけないのか。悲しく、腹立たしい」と声を震わせた。別の女性患者(22)も「人と何かが違うと悩んでいた時に先生から『病気の特性だから気にしなくてよい。これから治していこう』と言われ、救われた思いだった。決して恨みを買うような人ではない。なぜクリニックが狙われたのか」と憤った。【山本康介、野口由紀、菅沼舞】