コーヒー豆にマグロの腹、マスクの箱-。いずれも、違法薬物が密輸される際の隠し場所だ。薬物が高価格で取引される日本は生産地にとって魅力的な「消費国」とされており、密輸は後を絶たない。全国の空港や港湾で税関が押収した違法薬物は、5年連続で1トン超。検査の目をすり抜けようと密輸の手口は年々巧妙化しており、関係機関が水際対策を強化している。
コロナ禍も影響
大阪府警は今年9月、合成麻薬「LSD」を密輸したとして、麻薬及び向精神薬取締法違反(営利目的輸入)容疑で派遣社員の男(32)を逮捕した。LSDはオランダから国際郵便で密輸され、約1万片もの紙に染み込ませた上で絵画の裏に隠して持ち込まれていた。
財務省によると、全国の税関が空港や港湾で押収した違法薬物は5年連続で1トンを超え、令和2年は1906キロ。新型コロナウイルス禍で入国者が制限され、旅客便を使った違法薬物の持ち込みが減少する一方、国際郵便や貨物による密輸が増加しているという。
持ち込む手口も多様化しており、薬物を段ボールの隙間に隠し入れたり、絵画の額縁に練りこんだりと手が込んでいる。中にはコーヒーなどの豆やナッツ類の粒の中に詰めたり、薬物特有のにおいを消すためか、冷凍マグロの腹の中に入れたりするケースも。コロナ禍以降は、マスクの箱や医薬品、酸素ボンベなどに隠して持ち込まれた薬物が見つかっている。
魅力的な麻薬消費国
背景にあるのは、違法薬物の裾野の広がりだ。
「今と昔では使用者に違いがある」。ある捜査関係者はこう指摘する。
「一昔前、薬物の使用者は暴力団とつながりのある人や生活困窮者が多かった。だが最近はSNS(会員制交流サイト)の普及で、ごく一般の人が簡単に薬物に手を出している」。さらに、近年は在日外国人の使用も目立つ。
大阪税関によると、国内では違法薬物の精製が確認されることはまれで、流通するほとんどが密輸されたものとみられる。担当者は「日本では違法薬物が比較的高値で取引されることから、麻薬生産地からは『魅力的な麻薬消費国』とされているようだ」と打ち明ける。
「人の目」が要
そうした状況に、税関もただ手をこまねいているわけではない。
麻薬探知犬による取り締まりやエックス線検査に加え、近年は「不正薬物・爆発物探知装置」と呼ばれる最新機器を導入。外装に付着した違法薬物や爆発物の微粒子を検知でき、効率よく大量の荷物を検査することが可能になった。
それでも、密輸された薬物が検査をすり抜けてしまうこともある。大阪税関の担当者は「どれだけ技術が進歩しても、最後は『人の目』が要」と強調する。税関では、コロナ禍による旅客便の減少を受け、それまで空港で検査に当たっていた税関職員が、貨物や郵便を調べる業務に回って態勢を強化。輸入先の国ごとに手口のトレンドを分析し、警戒対象となる荷物を入念にチェックしている。
担当者は「職員の知識や経験、勘が巧妙に隠匿された薬物の発見に至ることは多い。新たな手口にも対応し、国内への流入を食い止めたい」と力を込めた。(石橋明日佳)