岸田外交の課題は、「外交的曖昧性を捨てること」にある。岸田文雄首相には「中国をとる」という選択肢は論理的に考えてもあり得ず、全力で同盟国・米国と歩調を合わせるべきだ。
ジョー・バイデン米政権は、台湾情勢や人権問題を焦点にして、中国との熾烈(しれつ)な覇権競争を繰り広げている。一方の中国は、習国家主席が来年の党大会で異例の3期目を目指すため、特に台湾問題では対米強硬姿勢を崩せない。
このような状況下で、岸田政権は発足当初から、米国と中国の激しい圧力にさらされている。そのリトマス試験紙は、来年2月の北京冬季五輪と、日中友好50周年の対応にある。
ただ、岸田政権には米国を取るしかない。日中の経済的相互依存より、日米の安全保障上の相互依存関係が死活的である。仮に、岸田政権が中国に媚びれば、米国にバッサリと切り捨てられるのは自明の理である。
米中で火花を散らしている台湾問題でも、日本は米国とともに中国に対峙(たいじ)するしか選択肢はない。もし、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権のように、米中間で「二股外交」「日和見外交」を展開すれば、あぶはち取らずとなり両国から食われる。
北京冬季五輪に関しては、中国は岸田政権に東京五輪を支援したことへの答礼を迫っている。しかし、それは菅義偉前政権の話である。
米国は、中国当局による新疆ウイグル自治区などでの人権弾圧を理由に、北京五輪に政府代表を派遣しない「外交的ボイコット」を決定した。それに、英国とカナダ、オーストラリアが追随した。先のG7(先進7カ国)外相会談の雰囲気を見ても、日本は民主主義同盟の中核にいる。
来年2月の北京五輪後は、台湾をめぐる米中の軍事的緊張度は一触即発の状況となり、「日中国交正常化50周年」どころではなくなるだろう。
習主席は8年にわたって権力の座にありながら、「台湾統一」には近づいていない。政権継続の正当性を示すためにも、来年秋の党大会までに、台湾問題で何らかの「成果」を示すべく行動に出るとみられる。
岸田政権にとって最大の試練は、米中の軍事的衝突への備えである。そのシナリオは数十あるが、最悪のシナリオは日本本土が戦場となる。その意味で、安倍晋三元首相の「台湾有事は、日本有事だ。日米同盟の有事でもある」という認識は間違いではない。
言うまでもなく、台湾は、日米にとって政治的・経済的・地政学的に価値が高く、死活的に重要である。台湾が中国に攻略されれば軍事基地化される。中国艦隊は第一列島線から日本への航行が自由になり、尖閣諸島どころか沖縄本島ですら時間の問題で中国に奪取されよう。
そうなれば、米軍は第二列島線から第三列島線まで後退する。米国は戦略上、横須賀基地の原子力空母や、佐世保基地の強襲揚陸艦を、グアムやハワイ、さらにはオーストラリアへ引くだろう。
岸田政権が台湾防衛に本気で取り組まなければ、日本は将来、在日米軍が実質的に存在せず、有事にだけ来る「有事駐留」を覚悟せねばならない。これでは、抑止力は格段に低下し、有事にも即応できない。
岸田首相の責任は重い。
■川上高司(かわかみ・たかし) 拓殖大学教授。1955年、熊本県生まれ。大阪大学博士(国際公共政策)。フレッチャースクール外交政策研究所研究員、世界平和研究所研究員、防衛庁防衛研究所主任研究官、北陸大学法学部教授などを経て現職。著書・共著に『核兵器の拡散: 終わりなき論争』(勁草書房)、『2021年 パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』(創成社)など。