大阪市北区のビルに入るクリニックから出火し24人が亡くなった事件で、逮捕状の請求前に被疑者の実名が公表された。 朝日新聞(12月19日)によると、大阪府警は「被害者・ご遺族が被疑者の早期特定を望んでいる。重大事案と鑑みて公表した」と説明したという。 報道各社は警察の発表を受け、被疑者の実名を報じている。府警の対応は異例とも言えるが、刑事事件に詳しい弁護士はどう見るか。神尾尊礼弁護士に聞いた。 ●現行犯逮捕でも必ず起訴されたり有罪になったりするわけではない 被疑者の実名公表について、どう考えますか 捜査機関の実名公表基準は必ずしも明らかにされていません。今までのケースをみると、事案の重大性や捜査の進捗具合などを総合的にみて、個別的に判断していると思われます。 ただ、私としては、もう少し段階を踏んだ議論があってよいと思っています。 公表の可否について、冤罪の可能性から判断する意見があります。現行犯逮捕なら「犯人」で間違いはないのだから、公表してよいのではというものです。 もっとも、現行犯逮捕によっても、犯罪の成立が担保されるわけではありません。正当防衛や責任能力が別途問題になり得ますし、現行犯逮捕であっても、必ず起訴されるわけでも有罪になるわけではないのです。 そもそも冤罪の場合にだけ、損害が発生するわけではありません。実名がさらされることで、解雇、離婚、退学などの社会的制裁がありえます。 結局のところ、公表されることによる不利益(社会的制裁など)と氏名公表の利益(犯罪抑止や予防など)を天秤にかけて、利益が上回るとされてはじめて、公表されるべきなのだろうと思います。 ●実名公表に抑止効果はあるのか ここからは犯罪学も踏まえていくことになりますが、重大事件において「公表されるから止めておこう」と考えることは多くなく、抑止効果は大きくないのではないかと考えます。 他方、「公表されるから止めておこう」というのは軽微な事件(万引きなど)や行政処分(道交法違反など)の方にこそ妥当しそうですが、一時停止違反で公表されるというのはバランスを欠くと考える方が多いと思います。 今後の防犯に活かすという意味でも、どういったビルで火災になったかなど事件の状況は重要ですが、誰がやったかを知っても意味がないように思います。 このように、私個人は、凶器を持って逃げている場合など以外、氏名公表が正当化される場面はほとんどないと考えていますが、様々な議論があってよいと思います。
大阪市北区のビルに入るクリニックから出火し24人が亡くなった事件で、逮捕状の請求前に被疑者の実名が公表された。
朝日新聞(12月19日)によると、大阪府警は「被害者・ご遺族が被疑者の早期特定を望んでいる。重大事案と鑑みて公表した」と説明したという。
報道各社は警察の発表を受け、被疑者の実名を報じている。府警の対応は異例とも言えるが、刑事事件に詳しい弁護士はどう見るか。神尾尊礼弁護士に聞いた。
被疑者の実名公表について、どう考えますか
捜査機関の実名公表基準は必ずしも明らかにされていません。今までのケースをみると、事案の重大性や捜査の進捗具合などを総合的にみて、個別的に判断していると思われます。
ただ、私としては、もう少し段階を踏んだ議論があってよいと思っています。
公表の可否について、冤罪の可能性から判断する意見があります。現行犯逮捕なら「犯人」で間違いはないのだから、公表してよいのではというものです。
もっとも、現行犯逮捕によっても、犯罪の成立が担保されるわけではありません。正当防衛や責任能力が別途問題になり得ますし、現行犯逮捕であっても、必ず起訴されるわけでも有罪になるわけではないのです。
そもそも冤罪の場合にだけ、損害が発生するわけではありません。実名がさらされることで、解雇、離婚、退学などの社会的制裁がありえます。
結局のところ、公表されることによる不利益(社会的制裁など)と氏名公表の利益(犯罪抑止や予防など)を天秤にかけて、利益が上回るとされてはじめて、公表されるべきなのだろうと思います。
ここからは犯罪学も踏まえていくことになりますが、重大事件において「公表されるから止めておこう」と考えることは多くなく、抑止効果は大きくないのではないかと考えます。
他方、「公表されるから止めておこう」というのは軽微な事件(万引きなど)や行政処分(道交法違反など)の方にこそ妥当しそうですが、一時停止違反で公表されるというのはバランスを欠くと考える方が多いと思います。
今後の防犯に活かすという意味でも、どういったビルで火災になったかなど事件の状況は重要ですが、誰がやったかを知っても意味がないように思います。
このように、私個人は、凶器を持って逃げている場合など以外、氏名公表が正当化される場面はほとんどないと考えていますが、様々な議論があってよいと思います。