臨時国会は21日、閉会日を迎えた。岸田文雄首相は結局、中国当局による新疆ウイグル自治区などでの人権弾圧を受け、北京冬季五輪に政府代表を派遣しない「外交的ボイコット」を、前日までの国会審議では明確にしなかった。同盟国の米国が、特に議会の圧力で対中強硬姿勢を強めるなか、岸田政権はどうやって、「日米同盟の強化」を進めるつもりなのか。福井県立大学の島田洋一教授は、現状に懸念を示したうえで、安倍晋三元首相と岸信夫防衛相の活用を進言した。
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岸田首相は、安倍政権で4年7カ月、外相を務めた。連続では戦後最長である。岸田外相の印象として外務省幹部が一様に語るのは、あの大柄でいかついロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と酒を飲みあって負けなかったという武勇伝である。
確かに立派だが、逆に言うと、それ以外に武勇伝が見当たらない。実質的に戦略を描き、外交を動かしていたのは、あくまで安倍首相だった。
安倍氏は、暴れ馬的なドナルド・トランプ大統領と「日米史上最良」と言われる個人的な信頼関係を築いた。それは一緒にゴルフをしたとか、G7(先進7カ国)首脳の先輩としていろいろレクチャーしたとか、孤立しがちなトランプ氏に助け舟を出したとかいった、表面的事情によるのではない。
背後に、従来の日本政治の殻を破る安倍氏の行動があった。箇条書きにしてみよう。
(1)オバマ政権時代の2015年、米軍と自衛隊のより踏み込んだ協力を可能にする「平和安全法制」を成立させた。
(2)17年に、朝鮮半島が一触即発の危機を迎えたとき、軍事圧力を強めるトランプ路線を全面的に支持した。それは、在日米軍基地の自由使用を含む後方支援の強化を意味し、「在韓米軍基地を使わせない」と宣言した韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領とは対照的であった。ちなみに、トランプ氏は以後、文氏に露骨に侮蔑的な態度を示すようになる。
(3)第5世代(5G)移動通信システムから、通信機器大手「ファーウェイ(華為技術)」など中国メーカーを排除するトランプ政権の方針に、先進国の中で最も早く同調した。
以上のような、踏み込んだ行動があったからこそ、「安倍・トランプ関係」が成立し得たのである。
それがなければ、いかに外交儀礼を尽くしても、「米国をカモにすることは許さない」をモットーとするトランプ氏は、事あるごとに猛然と日本に襲い掛かっただろう。
今はジョー・バイデン政権となり、「同盟国との協調」がうたい文句だが、裏を返せば、対中国で自ら前面に立って状況を切り開くことはしない。遠隔地における局地戦は同盟国の働きに期待するといった「数歩引いた姿勢」に他ならない。
もっとも、保守ハードライナーが多い米軍部や野党共和党は、台湾防衛に積極関与を打ち出すなど「数歩前に出る姿勢」を取っている。
岸田首相は、軍事を担う岸防衛相が「日米協力の牽引(けんいん)役」を果たせるよう環境を整え、合わせて安倍氏に「裏の外交」を依頼すべきだろう。
来年の米中間選挙では、間違いなく共和党が躍進する。安倍氏が築いてきた、共和党有力者たちとの太いパイプを活かさない手はない。
■島田洋一(しまだ・よういち) 福井県立大学教授。1957年、大阪府生まれ。京都大大学院法学研究科博士課程修了。専門は国際関係論。同大助手などを経て現職。北朝鮮による拉致被害者の支援組織「救う会」副会長。著書に『3年後に世界が中国を破滅させる 日本も親中国家として滅ぶのか』(ビジネス社)、『アメリカ解体 自衛隊が単独で尖閣防衛をする日』(同)など多数。