大阪市北区曽根崎新地のビルで25人が死亡した放火殺人事件では、現場のクリニック内の防犯カメラに谷本盛雄容疑者(61)の動きが克明に記録されていた。紙袋から流れ出た液体から立ち上る火柱、逃げようとした人に激しく体当たりする容疑者-。発生から24日で1週間。容疑者が居合わせた人たちを執拗(しつよう)に追い詰めた状況からは、強固な殺意が浮かんだ。
17日午前10時15分ごろ。ビル4階のクリニック前のエレベーターの扉が開いた。姿を見せたのは谷本容疑者。容疑者からみて左側にはクリニックの受付、右前方には地上につながる非常階段の入り口がある。両手に1つずつ持った大きな紙袋を床に置くと、他の患者と同じように靴を脱ぎ、受付カウンターのボックスに紙のようなものを入れた。
10人ほど患者らがいた待合室には入らず、エレベーターの前へ戻った。ポケットからライターのようなものを取り出すと、紙袋の1つに左手をかけた。惨劇が始まった。紙袋をゆっくりと傾けると液体が流れ出す。点火のチェックを何度かしたあとに着火すると、エレベーター前で一気に火柱が上がった。もう1つの紙袋を非常階段手前の扉付近へ投げるとそこでも炎が上がった。近くにいた女性2人が、急いで階段から逃げた。
突如、炎の中へと突進した。非常階段の方へ逃げようする1人に体当たりして奥へと押し返した。直後、炎が大きくなり、防犯カメラの映像はそこで途切れた。谷本容疑者がクリニックを訪れてわずか数分の出来事だった。
被害者全員が奥の区画に
現場からはポリタンク2つとオイルライター1つ、刃物の刃体部分などが見つかった。簡易鑑定の結果、引火した液体はガソリンと判明した。持参した2つの紙袋には、ガソリンを入れたポリタンクが1つずつ入っていたとみられる。焼損面積は約25平方メートル。谷本容疑者が火を放ったクリニック受付とエレベーター、非常階段に囲まれた一角が最も激しく燃えていた。
奥へと逃げ込んだ被害者26人は、全員が診察室やリワークルームがある区画から搬送された。火の手は及んでいなかったが窓や出入り口はなく、26人全員が心肺停止状態で見つかった。区画を隔てるドアの反対側で倒れていたのは、1人だけ。それが谷本容疑者で、最初に救出されたとみられる。
診療前から異変
事件当日、異変は午前10時に診療が始まる前から始まっていた。非常階段の扉が、外から粘着テープで目張りされているのが見つかったのだ。新型コロナウイルス対策の換気のため診療中は扉を常時開放するため、診療開始までにテープははがされた。
さらに出火後の現場検証では、クリニックの通路に設置された消火栓の扉が、補修材のようなもので隙間が埋められているのも確認された。事件までに異常に気付いたスタッフはいなかったとみられる。
谷本容疑者の居住先から見つかったメモには「消火栓を塗る」「隙間をどうするか」などと書かれていた。現場の状況と符合する部分もあり、メモが犯行計画だった可能性が高まっている。