長崎市遠藤周作文学館は28日、潜伏キリシタンを描いた小説「沈黙」などで知られる作家、遠藤周作(1923~96年)の未発表戯曲3本の原稿が見つかったと発表した。いずれも遠藤が生涯のテーマとした「日本人とキリスト教」について描かれており、関係者は「遠藤文学の神髄を伝える貴重な作品」としている。
見つかったのは、「善人たち」(清書原稿124枚、草稿25枚)▽「戯曲 わたしが・棄(す)てた・女」(清書原稿105枚、草稿22枚)▽「切支丹(きりしたん)大名・小西行長 『鉄の首枷(くびかせ)』戯曲版」(清書原稿117枚、草稿28枚)。使用された原稿用紙や遠藤の日記などから、執筆時期は「鉄の首枷」が75年以降、他の2本は79年ごろと推定される。「善人たち」以外は、遠藤による小説がある。
文学館では昨年、遠藤の未発表の中編小説「影に対して」の原稿が見つかっており、遺族からの寄託資料を再調査したところ、3本が未発表と分かった。未発表の理由は不明。いずれもタイトルはなかったが、出版が決まったため遺族らでつけたという。
3本のうち「善人たち」は、米ニューヨーク州オールバニを舞台に、神学校に通うため渡米した日本人青年とその周囲の米国人一家を描く。遠藤自身の戦争体験やフランス留学の経験などが色濃く反映され、人種問題や戦争とキリスト教など、遠藤文学の主要なテーマが凝縮されている。
これまでに確認されていた遠藤の戯曲は「黄金の国」など7本。同館の担当者は今回見つかった3本について「完成度、内容ともに他の戯曲と比べ遜色がない。今回の発見で、遠藤文学における戯曲の世界が広がる」としている。
文芸誌「三田文学」の元編集長で、遠藤と30年間親交があった加藤宗哉さん(76)は「3作とも作家としての最盛期に執筆されたもので、多くの連載を抱えながらも愛する演劇に情熱を注いでいたことが見て取れる。いずれも質の高い作品に仕上がりながら、世に送り出さず眠ったままにしたことが遠藤の非凡さを物語っている」と話す。
資料は2022年1月4日から、遠藤周作文学館で公開する。また、3作品を収録した単行本が22年3月、新潮社から刊行される予定だ。【田中韻】
遠藤周作
東京生まれ、慶応大卒。少年時代に洗礼を受け、宗教性の色濃い純文学作品を数多く残した。「狐狸庵山人(こりあんさんじん)」の雅号を名乗り、ユーモアあふれるエッセーでも知られる。1955年に「白い人」で芥川賞。戦時中に米軍捕虜が実験手術を受けて死亡した九大生体解剖事件をモデルにした「海と毒薬」で58年毎日出版文化賞。国内外で反響を呼んだ「沈黙」は谷崎潤一郎賞を受賞。代表作は他に「侍」「深い河」など。