「アベノマスク廃棄」発表で“英断”のような雰囲気に…主体性はないのに支持率は上昇、岸田文雄は“あの男”に似ている

岸田政権は不思議がたくさん。撤回や軌道修正ばかりなのに支持率は上昇中。この謎をどう読めばいいのか。最近ではオミクロン株感染者の濃厚接触者となった受験生への対応が不評とみるやすぐに撤回していた。ブレることにブレない。
以前に私は岸田氏が安倍&菅政権を反面教師にするだけで斬新なイメージがつくことを“岸田マジック”と呼んだ。その効果はまだ続いているようだ。首相周辺は「安倍、菅両内閣の失敗から学んだことは、批判を恐れて後手に回ってはならないことだ」と強調する(読売新聞2021年12月29日)。
ゆらゆらと上昇する、まるで風船おじさん
安倍・菅政権の記憶が濃厚なうちは朝令暮改といわれようが「スピード重視」を前面に出せば評価される。先日はアベノマスクの廃棄を発表しただけで英断のような雰囲気になった。とくに自分では何もしていないのにゆらゆらとアガっていくこの感じ。まるで風船おじさんである。
実は岸田報道にも異変を感じるのです。とくにタブロイド紙が興味深い。夕方に発売され、見出しや論調が刺激的でわかりやすいことが特徴のタブロイド紙は「日刊ゲンダイ」は政権批判、「夕刊フジ」は野党批判が売り。ところが最近は後者の夕刊フジも岸田批判が多いのである。いくつか並べてみよう。
『「ひ弱なハト派」岸田政権』(2021年12月28日付)
『宏池会外交大丈夫か』(12月24日付)
『対中政治闘争 岸田安倍 激突』(12月18日付)
『安倍高市 岸田に檄 台湾有事「厳重警戒」』(12月21日付)
今まで政権を擁護していたタブロイド紙にも厳しく書かれている岸田政権。こうなると岸田氏はピンチのようにも思えるが実はそうではない。なぜなら「野党」が埋没しているからである。立憲民主党などは、最近はネタにすらなっていないのだ。保守系メディアからすれば野党のほうから「批判から提案へ」と言いだしているのでもうどうでもよいのかもしれない。それより「宏池会・岸田はいかがなものか」という論調に夢中なのである。つまり岸田首相が野党の役割も果たしているのだ。
政党が自民党しかないようなマジック
岸田氏はもともと再分配政策など立憲にも近かった。自民党はその岸田氏をトップに掲げることで野党への「抱きつき戦法」の効果も得ているように見える。タブロイド紙では岸田首相が保守派の矢面に立っており、まるで政党が自民党しかないようなマジックになっている。この構図は総裁選報道のときと同じだ。マスコミの目は「岸田VS高市・安倍」という自民党内の対決に目が行く。一般紙も似たような状況だ。次の案件が盛り上がっていた。
『財政政策 異例の議論 自民 2組織が並立』(産経新聞2021年12月8日)
政府の財政運営をめぐり、自民党内で財政規律派と積極財政派によるつばぜり合いが熱を帯び始めたと冒頭で伝える。『規律派首相VS積極派高市氏 主導権争う』という見出しもある。
朝日新聞は『自民財政再建派 風前のともしび 積極派席巻 本部最高顧問に安倍氏』(2021年12月2日)。
毎日新聞はズバリ『首相、安倍氏は煙たい存在? 政策に違い くすぶる火種』(2021年12月28日)。
自民党内での闘争が紙面を奪っている。こうなると保守派からのツッコまれ役も引き受ける「岸田人気」はますます高まるだろう。本人はとくに何もしていないのに。
岸田氏は「あの男」に似ている
そんな岸田政権の発足から3カ月。「過去の政権では誰に似ているか」と私が当初に考えて浮かんだのは「宮澤喜一」「村山富市」だった。安倍氏や麻生氏が岸田氏当選に影響力を持った総裁選を見たら、過去にそれぞれ主導権を握られていた首相たちの顔が浮かんだのだ。
その一方で、岸田政権が主体性はないのにいつの間にかひょいひょいと化けていく可能性を考えると「小渕恵三」政権も思い出した。小渕首相は98年の発足当初は「冷めたピザ」と海外メディアに報じられ、これといった特徴の無さは「真空総理」と呼ばれた。
しかし自民・自由・公明の連立政権(現在の自公連立はこのときに始まった)を発足させて政権基盤を固めると「日米防衛協力のための指針」(日米新ガイドライン)、「国旗・国歌法」「通信傍受法」「改正住民基本台帳法」などを次々に成立させた。温厚そうな人柄が徐々にウケていたがハードな政策を次々に飲み込んでいく様子を見て、週刊誌が「本当は怖い小渕政権」という特集を組んでいたのを思い出す。
となると岸田政権も……。
そういえば正月の新聞で思い当たるものがあった。読売新聞は「新年展望」に安倍晋三氏を登場させていた。元日は『対中連携 各国と強化を』、3日は『岸田氏 人事思い通りに』。そこで安倍氏は岸田首相にこんな言葉を。
《国会では、憲法改正論議の進展に期待しています。ハト派の宏池会から出ている岸田首相の時代だからこそ、一気に進むかもしれません。》
「変わり身の早さ」はブレない
たしかにハト派の宏池会の岸田氏が動けば「憲法改正」も「敵基地攻撃能力の保有」も安倍氏の悲願が実現する。こういう政策は岸田氏のような何もこだわりがない真空総理のときにこそ実現するのだろうか。まさに小渕政権の再来ではないか。10万円給付のときは野党の主張、そして次は安倍氏の主張。各方面で丸飲みすることにブレない。
《批判を受ければ、ためらうことなく方針を転じる。変わり身の早さを、自民党幹部はこう評する。「ぬえみたいな政権だ」》(朝日新聞1月5日)
ぬ、ぬえ。なんでも飲み込んでしまう想像上の生き物のことだ。さらに、
《融通無碍(むげ)を可能にしているのは、岸田自身のこだわりのなさだ。》(同前)
ビジョンがなくこだわりがない怪物はなんでも飲み込んでしまう。この調子でどこまで行くのか。
私は「本当は怖い岸田政権」と名付けたい。
(プチ鹿島)