新聞が1年でもっとも面白い日はいつか。それは「成人の日」です。
新聞を擬人化するなら「おじさん」だと私は思っています。「社説」は難解なイメージがありますが「大御所の師匠が小言を垂れている」と思って読むと急に楽しくなるのでおススメです。
たとえば元日の社説を見てみましょう。日経は「資本主義を鍛え直す年にしよう」、毎日は「つなぎ合う力が試される」。おじさん方がさえずっていますね。この程度の受け止め方でいいと思います。
上級者編にいきます。おじさん濃度の高い産経新聞は社説の代わりに「年のはじめに」として『さらば「おめでたい憲法」よ』(論説委員長 乾正人)を持ってきました。読んでみると「おめでとう」の代わりに「おめでたい」を入れたことに満足気のよう。こんな年賀状が元日に来たら驚きます。
朝日新聞、伝説の社説
さて、そんなおじさん方が「成人の日」は新成人にメッセージをおくるのです。もう危険な香りしかしません。ただでさえエラそうなおじさんが「我々はすでに成人している先輩である」という謎の優位性を爆発させるのが「成人の日」の社説なのです。何度も言いますがこれは危ない。
では、今や伝説となっている社説を紹介しよう。2012年の朝日新聞の社説です。
タイトルは『尾崎豊を知っているか』。
凄い。凄すぎる。そして冒頭も凄いです。
《ああ、またオヤジの「居酒屋若者論」か、などと言わずに、聞いてほしい。キミが生まれた20年前、ロック歌手・尾崎豊が死んだ。》
いきなり居酒屋で絡んでいます。
朝日師匠は尾崎豊が「大人や社会への反発、不信、抵抗」を歌い、「『ここではない、どこか』を探し、ぶつかり、傷つく」ことで当時の若者の共感を呼んだと説きます。
そして「尾崎豊はどこへ行ったのか」と一方的に問いかけます。しかし……。
《いくら「若者よもっと怒れ」と言っても、こんな社会にした大人の責任はどうよ、と問い返されると、オヤジとしても、なあ……。》
成人の日マウントの見本
壮大なひとり言です。ハラハラします。大丈夫でしょうか。よせばいいのにこのあと「でも、言わせてもらう」。
《私たちは最近の社説でも、世界の政治は若者が動かし始めたと説き、若者よ当事者意識を持てと促した。それだけ社会が危うくなっていると思うからだ。
だから、くどいけれど、きょうも言う。成人の日ってのは、そんなもんだ。
ともあれ、おめでとう。》
完全に酔っぱらっていました。さんざん言うだけ言って「ともあれ、おめでとう。」って何だよ。エラそうだな。ともあれ成人の日マウントの壮絶な見本でした。
この社説が話題になりすぎたのか、それとも私が各所でネタにしたからか、2018年の成人の日の朝日社説はこんな一文を書いてきた。
《大人に、ましてや新聞に「かくあるべし」なんてお説教されるのはまっぴらだ、と思うくらいでちょうどいい。その大人たちだって、いまだ冷や汗をかきながらの人生なのだ。》
予防線張ってるじゃん!
いや、いや、社説ぐらいは好きに書いてください師匠。毎年楽しみにしている私みたいな好事家がいるのですから。
さて今年、2022年は各紙どのような社説を書いてきたのか。
まず今年の大事なことを書くと、成人年齢が4月から18歳に引き下げられる。18歳から親の同意を得ずに契約行為ができるようになる。たとえばクレジットカード、スマホ、アパートなどの契約だ。その代わり「未成年取消権」は失われる。一方で喫煙、飲酒、公営ギャンブルは従来通り20歳を維持。
つまり、今年の社説には「大人の自覚を持てよ」というフレーズがますます炸裂することが予想されるのだ。
今年の「成人の日」社説、まずは朝日新聞から
朝日新聞からいこう。
『(社説)大人の自覚 育む責任「大人」にこそ』
やはり「大人の自覚」が入ってきました。しかしよく読むと、
《当事者に大人としての自覚をもってもらうのは当然として、ではそのために大人の側は何をすべきで、何ができるのか。あらためて考える機会にしたい。》
《大人の側がこれまでの思考や行動様式を見直し、対等な社会の構成員として若者に向き合う。そうしてこそ、大人の自覚は醸成される。》
むしろ「大人」側の問題として社説を書いていたのだ。若者に説教を垂れていた社説をイジられたのに懲りて方向転換なのでしょうか。「居酒屋若者論」は社説の場ではなく本当の居酒屋でおこなっているのだろうか。だとしたら若手社員の皆さん、逃げて。
保守系ガンコ親父の産経新聞
こういうときは産経新聞が心強い。保守系のガンコ親父というイメージを保っているからだ。では見てみよう。
『成人の日 学び考え行動する大人に』
期待通りのタイトル!
本文ではいきなり「若者を取り巻く環境は甘くない」。そして「選挙は自らの意見を政治に反映できる機会だ。そのためには学び考え、自分の意見をしっかり持たねばならない」。
こういうのが読みたいんだ! ありがとう産経師匠。そして早くも師匠は新成人にゲキを飛ばす。春から新たに18、19歳が成人となるが、
《(18、19歳の)「新成人」の見本となってもらいたい。そのための指針となる言葉を紹介しよう。一昨年に亡くなった評論家・山崎正和は雑誌「潮」に「令和に生きる日本人へ。」と題する論文を寄せ、混迷の時代を生きる日本人に3つの「遺言」を示した(片山修著『山崎正和の遺言』から)。》
なんか産経師匠、スパートかけてきたぞ。
3つの「遺言」とは、
・「過去と歴史の教訓から真摯に学ぶ」 ・「社交の技術」 ・「読書の大切さ」
産経師匠の結びの言葉は「ハードルは高いがまずはどれか一つから始めてみてはどうか。大人の時間はたっぷりある」。ありがたいお言葉でした。最後の「大人の時間はたっぷりある」を読んだら若者の年金問題が気になってしまいました。
なんだか怖い、東京新聞
さて成人の日の語りかけといえば、昔の偉い人や有名人の言葉から引用して「論」をはじめるパターンがあります。今年を見てみると、毎日新聞コラム「余録」はアインシュタイン、読売新聞コラム「編集手帳」は谷川俊太郎、東京新聞コラム「筆洗」はアーネスト・ヘミングウェーでした。
このなかで「筆洗」のラストが印象的でした。
《成人の日おめでとう。大人になるという永遠に続く道にようこそ。》
なんか怖い。大人になるというのは大変です。
【参考資料】
・ 『「20歳すぎると時の流れがほんと早いから」 朝日、読売、産経、東京の成人式社説はどう“激励”した? 「おじさんはすでに成人している」という謎の絶対優位』 (文春オンライン2020年1月17日)
・ 『朝日、産経、読売 成人式社説「おじさんの壮大なひとりごと」を読み比べてみた! なぜか、居酒屋で絡まれている気分になる社説』 (文春オンライン2018年1月12日)
・ 『(社説)大人の自覚 育む責任「大人」にこそ』 (朝日新聞2022年1月10日)
・ 『主張 成人の日 学び考え行動する大人に』 (産経新聞2022年1月10日)
・ 『余録』 (毎日新聞2022年1月10日)
・『筆洗』 (東京新聞2022年1月10日)
(プチ鹿島)