「勝手につくば大使」「ミルクおやじ」…選管泣かせの通称、どこまで認められるか

[New門]は、旬のニュースを記者が解き明かすコーナーです。今回のテーマは「通称」。
選挙の度に「これって本名?」と、目が留まる候補者がいる。公職選挙法で使用が認められた通称だが、認定するかどうかを判断する各地の選挙管理委員会は半世紀以上前から頭を悩ませてきた。

「広く通用している」選管が認定

茨城県つくば市議の小村政文さん(28)は2020年10月の市議選に初挑戦し、議席を得た。選挙戦で名乗ったのは「勝手につくば大使」。筑波大在学中の15年から続けている、市内の飲食店やイベント紹介のブログのタイトルを用いた。市議としてやりたかったことが、「大使」の活動と同じ市のPRだったからだ。
「これは認められるのか?」。市議選の2か月前、小村さんから相談を受けた市選管の窪庭隆事務局長(59)は困惑した。選挙運動で使用するには、選管に申請書を提出してもらい、認定する必要があるが、公職選挙法施行令は通称を「本名に代わるものとして広く通用している」と定義しているだけだ。小村さんにブログのコピーと市内で配っているフリーペーパーを出してもらい、窪庭さんは条件をクリアしたと判断した。
「勝手につくば大使」は、定数28人中19番目の票を集めた。しかし、選挙後に市民5人が、通称の認定が不当だとして当選無効を市選管に求めた。選管は「仮に不真面目、又は

侮蔑
(ぶべつ)、

嘲弄
(ちょうろう)の意と受け取ったのであれば、投票しない選択肢が用意されている」などとして、棄却。市選管の決定を不服として審査を申し立てられた県選管も市選管の決定を支持した。

公選法明記せず 戦後から悩み

戦後、民主化によって女性が参政権を持ち、投票年齢が男女問わず20歳に引き下げられた。1947年4月には1万超の自治体で首長選や議員選を実施。「選挙関係実例判例集」を見ると、その頃から各地の選挙管理委員会や自治体が通称の扱いに悩んでいたことがうかがえる。
総務省によると、当時も選挙運動で通称を用いる時は申し出ることになっていた。ただ、選管などに通達が出ているだけで法令には明記されておらず、多くの候補者が手続きをせずに通称で活動していた。
判例集から一例を引くと、46年に行われた戦後最初の衆院選では、九州のある候補者が、過去に活躍した地元政治家の名前を申し出ることなく通称として使用。自治体は政治家名が記載された投票用紙について「(候補者名の)投票とは認め難きものと存ぜらるるも


(いささ)か疑義あり指示


(こ)ふ」と内務省に照会し、「お見込の通り」との返答を得ていた。
64年、公選法施行令に通称の定義が示され、申請などの認定手続きが明文化されたのは、こうした背景からだった。

ネットの実績

それから半世紀余りが過ぎて通称の幅はネットの世界へも広がり、「選管泣かせ」の時代となった。
「動画サイトで有名だ」「ネットで音楽配信している」。2020年の東京都知事選、21年の都議選には、ネット上の活動を理由に通称使用を希望する候補者が現れた。都選管の佐藤竜太選挙課長(52)は「ネットの実績だけを理由に通称を認めた例はない。提出された資料に基づき、選挙が行われる区域の有権者にどれほど知られているかを総合的に検討し、判断している」と語る。
選挙制度に詳しい法政大の白鳥浩教授(53)は「SNSや投稿サイトの通称を主張する候補が増えていく一方、選管がその活動を知らないというケースも多くなっている」と指摘。「サイトの閲覧者数などで線引きすることは難しく、各地の選管の実例を蓄積、共有して一定の判断基準を用意しておく必要がある」と話している。