「女子はスカート限定」「恋愛禁止」「校則違反の下着は脱がせる」――。こうした「ブラック校則」が社会問題化する中、高校生たち自身が“不合理な校則”の変更を求めて声を上げ始めている。文部科学省が2021年6月、この問題への対処を求める通知を全国の教育委員会に出した経緯も後押ししているとみられる。専門家は「校則の見直しを求める動きは、以前は学外から起きていましたが、新たな流れが生まれています」と評価する。実際に生徒たちが声を上げた学校現場をのぞいた。【南茂芽育、小林遥、佐藤英里奈】
女子もズボンOKに
21年12月中旬、千葉県市原市の県立姉崎高校では、ズボン姿とスカート姿の女子生徒が入り交じっておしゃべりを楽しんでいた。同校は男子だけに認めていた制服ズボンの着用を22年4月から女子にも認めようと、女子に合うサイズのズボンを業者に発注する準備を進めていた。しかし、生徒会が21年6月と9月に全校生徒を対象に行ったアンケートで「『女子=スカート』は違う」「性的少数者などLGBTQに配慮すべきだ」などの意見があったことから、11月から男子サイズでも構わないという女子にズボンの購入・着用を認めた。
早速ズボンをはくようになった磯貝茉莉愛(まりあ)さん(2年)は「もともと足を出すのは好きじゃないし、寒い季節はズボンをはきたかったんです。校則変更は『やった!』という気持ちです」と笑顔を見せた。
生徒会メンバーを中心とした有志は今、新たに「スカート丈は膝下まで」「整髪剤禁止」や前髪の長さ制限が男女で違うなど、6項目の校則も変えたいと動いている。中でもスカート丈の校則は、アンケートで女子の9割以上が改善を要望した。「長いと自転車のチェーンに絡まって危ない」「学校の和式トイレで裾が床に付いて汚れる」などの理由だ。
生徒会は21年12月下旬、「スカート丈は膝頭の上端まで」とするように校則の変更案を学校側に提出した。学校側は案を今月1カ月間試行し、違反がなければ加瀬直人校長が新校則として認める。
制定権限は校長に
そもそも校則とはどういうもので、誰が作るものなのだろうか。文科省が10年にまとめた生徒指導提要では、校則について「法令の規定は特にないが、判例では、学校が教育目的を達成するために必要かつ合理的範囲内で制定する」と説明。「生徒の行動などに一定の制限を課すことができ」、制定の権限は校長にあるとしている。
校則の見直しに柔軟に対応している姉崎高校の加瀬校長は、15年の公職選挙法改正で選挙権年齢が20歳以上から18歳以上になったことを踏まえ、「18歳になった高校生にも選挙権が与えられるようになり、生徒も先生と同じ1票を持ちます。『本当の大人』に近づくよう一歩踏み出し、主体的な取り組みを通じて何かを変える経験をしてみてほしいです」と語る。
過去に風紀の乱れから厳格化
だが、そんな加瀬校長も元から無意味な校則が続いてきたとは思っていない。同校は約20年前、退学者が続出し、定員割れする学校だった。この時期、朝から放課後まで校門近くにテントを張り、登下校時を中心に生徒指導に当たったのが、当時の生徒指導部長だった加瀬校長らだった。それまで、校則上のスカート丈は膝上10センチまで許されていたが、服装の乱れや盗撮被害を防ごうと「膝頭まで」に変更し、その後さらに「膝下まで」に下げられた。こうした校則の厳格化や教諭らの指導が進む中、数年で生徒たちの行動も落ち着き始めたという。
加瀬校長は「校則を厳しくすることで、地域の人から『あいさつも増え、以前より生徒たちの雰囲気が良くなった』と言われるようになりました。厳しい校則の意義はありました」と振り返る。しかし、今も同じだとは考えていない。同校の生徒たちがスカートの長さについて社会の感覚を知りたいと地元企業や地域住民に聞き取り調査やアンケートをしたところ、膝頭の上端までなら適切と考えられるとの回答が多かったことも今回の試行許可につながったという。「今は『スカートが長いから姉崎は選ばない』という中学生もいます。他校の基準や企業の求める水準も踏まえ、時代に合わせることが大切です」と語る。
対立ではなく対話で
教諭たちの中には、厳しい校則は「むしろ生徒を守る」「学校のブランド」との意見もある。加瀬校長はそうした考えを尊重しつつ、生徒に「先生とは対話を通して合意形成するように」と求めた。その結果、生徒たちの間に、議論して校則を変えようという姿勢が生まれた。生徒会は「対立ではなく対話」を掲げ、教諭たちとのミーティングを重ねている。
生徒会メンバーの児島早苗さん(2年)は「世界規模の社会問題ってまだ遠く感じるけど、校則は自分たちにとって一番身近な社会問題。自分たちも意見を言う権利があり、学校は変えられると感じました。絶対変えたいという強い思いが大切です」と話す。同じく生徒会メンバーの藤村佳祐さん(同)も「1から100まで同じ考えを持つ人はいません。これからも(校則の変更を巡る)経験を生かし、話し合うことで分かり合っていきたいです」と語る。生徒会長の田畑希乃羽(ののは)さん(3年)も熱を込めて話す。「全国にブラック校則はまだまだあっても、自分の意見を言うことを諦めている子もいると思います。言ってもいいんだよ、と皆に伝えたいです」
指導の明確な根拠ない学校も
校則がない学校はどうだろうか。東京都立北園高校(板橋区)では、生徒手帳に注意事項として「高校生として学ぶ場にふさわしい服装・頭髪で学校生活を送る」と記載する一方、髪染めやピアス、化粧などを禁止する具体的な文言はない。このため、教諭らが「(髪の色が)明るすぎる」などと注意するのは指導の根拠がないとして、生徒たちが声を上げた。
前生徒会長の安達晴野(せいや)さん(3年)は「自由な校風」に憧れて進学したが、1年生の時、教諭らが髪染めについて「明るすぎる」と注意していることを知り、「理由の説明がなく、一方的」と感じたという。
そこで、2年生になって生徒会長に就いた安達さんは、明文化されたルールのない髪染め指導について問題提起する「北園現代史」と題した動画を他の生徒が作る際に協力。21年4月にユーチューブにアップされた動画には、校内インタビューで聞かれた「髪染めが禁止なら、そのように(校則として)書いてほしい」「先生が(指導理由を)説明できていない」といった生徒の意見や、教育問題に詳しい有識者らのコメントが盛り込まれ、同世代の視聴者を中心に反響があった。
安達さんは「それぞれが自分のありたい姿でいられること、他人のありたい姿を尊重できることが大切だと思います」と語る。「校則や生徒指導の問題は人権に関わるテーマです。本来、誰かの身だしなみについて、他人が制限を加えることはできないはずです」
同校は取材に、髪染めについて「赤や緑など極端なものは注意しています。ただ、注意する際の明確な基準はなく、(生徒手帳にある)『高校生として学ぶ場にふさわしい』という表現も曖昧なので、その基準を設けるべきか生徒と話し合いの場を持っています」としており、生徒と学校の間で前向きな議論が始まっている。
多くが「理不尽な校則」を経験
子どもたちの学習支援などを手がけるNPO法人などが立ち上げた「ブラック校則をなくそう!」プロジェクトは18年、15歳以上の10~50代の男女2000人を対象にした校則に関するアンケートをインターネット上で実施した。その結果、中学時代は3人に2人が、高校時代は2人に1人が理不尽と感じる校則を経験したと答えた。
アンケートで、中学校の校則の体験として10代が挙げた割合が高かったのは、「スカートの長さが決められている」「帰宅途中に買い物はできない」などのルール。他に、「下着の色が決められている」▽「冬でもストッキングやタイツ、マフラーなどの防寒対策をしてはいけない」▽「体育や部活時に水を飲んではいけない」▽「恋愛をしてはいけない」▽「カバンや制服はお下がりではなく新品でなくてはいけない」――などの校則もあった。
同プロジェクトは、校則が厳しい学校ほど、いじめの被害や加害の経験割合が高い傾向があるとの分析結果も示した。
校則問題に詳しい内田良・名古屋大学大学院准教授(教育社会学)は「校則を見直す動きは、これまで専門家や教育関連団体など校外から起こることが多かったのですが、世論の高まりの中で校内から声が上がるケースが増えており、大きな前進です」と評価しつつ、「生徒が声を上げても保守的な先生が容易に受け入れないケースがまだ多いです。子どもの主権者意識がどこまで花開くかは大人次第。先生側の意識改革が必要です」と指摘する。