【最大ゆ党 維新躍進のカラクリ】#2
昨年10月の衆院選は、安倍-菅自公政権がコロナ失政の揚げ句、2代続けて政権を投げ出すという異常事態の中で行われた。
コロナ禍は、アベノマスクに象徴されるような愚策のオンパレードだった安倍-菅自公政権の政治的無能さを暴き出しただけではない。小泉「構造改革」以来、20年にわたる新自由主義的政治がもたらした貧困と格差の拡大や医療体制の絶望的な脆弱化といった問題を白日の下にさらしたのだった。
昨年8月には12万人に迫る自宅療養者(という名の自宅放置者)を出した医療崩壊の現実とともに、一昨年には女性の自殺者が劇的に増加したこともまた、コロナ禍が暴き出した日本社会の大きなひずみのひとつだった。コロナウイルスは決して平等主義者ではない。この社会の最も弱い人々を襲うのだ。
さすがの自民党でも、総選挙に先立って行われた総裁選で、岸田文雄現首相が新自由主義との「決別」をほのめかさざるを得なくなる。「新しい資本主義」とやらの内実はいまだに見えてこないが、新自由主義からの脱却を旗印に打ち立てた立憲民主党や共産党だけでなく、自民党までもが新自由主義を否定しようとしたことは大きい。コロナ禍がもたらした重要な変化だ。
こうした状況のもと維新は、「唯一の新自由主義政党」という立ち位置を確保した。松井一郎代表は岸田首相の所信表明演説を受けて、「新自由主義からの脱却とか、そこが全然よく分からんかった」とコメントした。「松井はそもそも新自由主義という言葉を知らんのだろう」などと笑いのネタにし、揶揄する向きもあった。しかし、維新に対するこうした過小評価は禁物だ。維新は自民から共産までの日本の政党配置の中で、自分たちが唯一の新自由主義政党となったことを十分に自覚しつつ、そのことを固い支持層にはっきりとアピールしようとしたのである。
■信奉者にオルタナティブ刷り込み
こうしたアピールによって、維新は「勝ち組」意識を持つ中堅サラリーマン層らのコアな支持層に安心感を与えるとともに、自民支持層の中に確実に存在する新自由主義を堅く信奉する人々との間にオルタナティブとしての自らの姿を刻み込むことに成功したのだ。「維新さるもの」である。
こうして総選挙投開票日翌日の米誌ニューズウィーク(電子版)が「それでも日本人は新自由主義を選んだ」と評したような結果がもたらされたのだ。とはいうものの、これは事柄の一面でしかない。(つづく)
(冨田宏治/関西学院大学法学部教授)