犯人逮捕の報告できぬまま七回忌 未解決事件遺族「区切りつけたい」

犯人逮捕の報告ができないまま、七回忌を迎えた。2016年、何者かに最愛の人を殺害された遺族は、やり切れない思いを胸に、「あの日」からを生きてきた。
愛知県蒲郡市で16年3月、ミカン農家の杉浦加津代さん(当時73歳)は自宅で何者かに殺害された。捜査関係者によると、侵入経路とみられる自宅北側の居間の窓ガラスの割れ方などから、空き巣の常習犯による犯行の可能性が高い。長男の司さん(57)と妻の多香子さん(57)は「いつまでも未解決事件の遺族でいつづけるのは苦しい。心に区切りをつけるためにも、犯人を逮捕してほしい」と語る。
16年3月10日、出張から帰った司さんが、自宅1階の仏間で亡くなっている加津代さんを発見した。首には携帯電話の充電コードが巻かれた状態だった。居間の窓ガラスが割られていたことなどから、県警は外部から侵入した人物による殺人事件として、捜査本部を設置した。
捜査関係者によると、窓ガラスはクレセント錠の周囲だけを割る手法で、空き巣の常習犯がよく使う手口の一つだという。現場付近では当時、住宅を狙った窃盗事件が発生していた。ある捜査幹部は「窃盗目的で侵入し、たまたま家にいた被害者と遭遇した事後強盗ではないか」と分析する。
事件発覚前日の9日午前8時ごろ、加津代さんは、仕事に向かう多香子さんを自宅で見送っている。午前10時半から近所の寺で法要に出席する予定だったが、姿を見せなかった。加津代さんはこの2時間半の間に被害にあったとみられる。
畑仕事を天職としていた加津代さん。夫が病死した後も毎日一人で畑に出ていた。「人にあげられるものがあるってうれしい」と言い、育てた野菜や花を近所の人などにあげてしまう。そんなやさしい人だった。
司さん夫妻は21年3月、加津代さんが守ってきたミカン畑の手入れを始めた。事件後、知り合いの農家に借りてもらっていた畑の一部が返ってきたのがきっかけだった。5年ぶりに畑に行くと、1000平方メートルほどのミカン畑の隅に、デコポンの木が植わっていた。デコポンが好きな多香子さんのために、加津代さんが植えてくれていたものだった。
週末にたまに畑に出る程度だったが、仕事は思った以上に大変だった。除草剤をまいたり、一つ一つ丁寧に収穫したり。「一人で毎日作業していたと思うと、やっぱりパワフルな母でした」と司さんは振り返る。誰よりも元気で、これからも多くの時間を一緒に過ごせると思っていた。
冬にはオレンジ色の実が畑を彩った。生前、収穫の手伝いで集まった司さん夫婦たちを見ながら、うれしそうに働いていた加津代さんの顔が浮かぶ。久しぶりに母の畑のミカンを食べると、酸味と甘みが口いっぱいに広がった。懐かしい「母の味」がした。
2000日を超えた捜査は、今も続く。その間、何人もの担当の警察官が転勤や退職し、新しい人が来てはまた異動していった。事件の節目が近づくたびに取材に来る記者も毎年のように変わっていく。「あの日」のことを、知らない人も増えてきた。一方で司さん夫婦はずっと、晴れない思いを胸に日々を過ごす。
母の命を奪った人物は、時間がたてばたつほど「もう自分は捕まらない」と安心感を強め、普通の生活に戻っているのではないか。想像すると、やるせない気持ちで胸がいっぱいになる。「命が奪われた悲しみは変わらないし、帰ってくることはない。けれど、今のままでは気持ちの整理がつかない」。あの日から、一歩を踏み出せる日を願っている。【高井瞳、森田采花】

事件に関する情報提供は愛知県警蒲郡署捜査本部(0120・110・463)まで。