事故時の運転手は誰か 飲酒で同乗の2人死亡 14日判決

「『死人に口なし』とは、まさにこのことではないでしょうか」。事故で亡くなった男性の妻(26)は法廷で悲痛な心境を吐露した。電柱などに衝突した乗用車の2人が死亡した事故を巡る福岡地裁小倉支部の公判。乗用車を飲酒運転したとして起訴された被告は「自分ではなく、同乗の男性が運転していた」と主張している。真相はどうなのか。14日の判決を前に、男性の遺族はやり場のない憤りに声を震わせた。
飲酒運転事故を起こし同乗者2人を死亡させたとして自動車運転処罰法違反(危険運転致死)と道交法違反(酒気帯び運転)の罪に問われたのは、北九州市八幡西区御開の配管工、堀田亮太被告(32)。起訴状などによると、堀田被告は2018年5月5日午前4時40分ごろ、八幡西区洞南町の県道で、乗用車を時速約134キロで飲酒運転して電柱などに衝突させ、同乗していた友人の原崇登さん(当時28歳)と梶山祐太さん(当時22歳)=いずれも同区=を死亡させたとされる。
事故を起こしたのは堀田被告名義の車だった。事故で車外に投げ出された状態で見つかった堀田被告は、公判で「後部座席で寝ていたので運転していない」と起訴内容を否認。運転していたのは、梶山さんだったと主張している。梶山さんも事故の衝撃で車の14メートル先に投げ出されていた。
公判では、事故当時の運転手が堀田被告だったと認められるかを争点に、検察側と弁護側の主張が真っ向から対立した。それぞれが証人として立てた交通事故鑑定人2人の意見も大きく食い違った。
検察側は論告で「事故で変形した車の天井内張前端部に堀田被告のDNA型と一致する毛髪や皮脂のような物質が付着していた。後部座席取っ手には梶山さんが履いていた黒色ジーンズと同種の黒色綿繊維が溶着していた」と指摘した。被告が青色系ズボンを履いていたことを示した上で「運転席付近に青色の繊維のような物質が溶着していた」と主張し「被告が運転手であったと強く推認される」とした。
一方、無罪を主張する弁護側は弁論で「運転席付近で採取された繊維と堀田被告が履いていたズボンの構成繊維の同一性は鑑定されていない」と指摘。「梶山さんの遺体に運転手ならではの傷があり、運転席にいた梶山さんが遠心力などで後部座席から車外に放出された可能性は十分にある」とした弁護側証人の鑑定を踏まえ「検察官は、運転手が梶山さんである可能性を排除できていない」と主張した。
事故から4年「長かった」
裁判員裁判の審理は2月16日から28日まで計6回15時間(休廷時間除く)に及んだ。28日の論告求刑に先立ち、24日の第5回公判で、被害者遺族として心情意見陳述制度を利用して証言台に座った、梶山さんの妻(26)は声を震わせた。
「私は『本当のこと』を裁判で知りたいという強い気持ちを持っています。事故から裁判が始まるまで4年近くたってしまいました。裁判が始まる、と去年の年末に聞いて『長かった』という思いがまず湧いてきました。事故が起こってから、夫と同乗していた原さんは亡くなり、堀田氏しか事故のことを知っている人がいなくなってしまいました。警察に何度電話しても『まだです』『待ってください』としか言われず、どうしたらよいかわからず、夫を失った喪失感とあわせて、どこにこの無力感をぶつけたらいいのか、本当にきつかったです。堀田氏は『自分は運転していない、運転していたのは夫だ』とこの裁判で主張していると聞いています。『死人に口なし』とは、まさにこのことではないでしょうか。理不尽でなりません。夫が生きていてくれればという気持ちです。悔しくて仕方ありません」
被告の涙に遺族は
梶山さんの母(43)も公判で証言台に座り「(堀田被告は)祐太の命を奪い、未来を奪ったにもかかわらず、名誉までも奪おうとしています。何があってもこの先許すことはありません。できる限りの一番重い処罰を望みます」と裁判員に訴えた。弁護人の隣に座り、タオルで目元を押さえ、うつむいていた堀田被告の姿はどう映ったか。梶山さんの母は毎日新聞の取材に「演技だと思う。泣きたいのはこっちです」と答えた。
梶山さんの母によると、3人兄弟の長男だった梶山さんは、歳の離れた弟にとっては父親のように頼れる存在だった。葬儀や通夜には、友人や職場関係の人など300人近い参列があった。
事故で重傷を負って入院した堀田被告が福岡県警に逮捕されたのは、事故から2年以上たった20年7月だった。堀田被告から墓参の申し出はなく、「退院後に飲み歩いている」「誕生日パーティーをしていた」といったうわさを耳にしたり、SNS(ネット交流サービス)上で目にしたりする度に、「憤りが増すばかりだった。怒りをぶつける所もなかった」と梶山さんの母は振り返る。
堀田被告が「梶山さんが運転していた」と主張していることも人づてに聞いたが、事故で大破しスライドドアが外れた車を警察署で見たことや、梶山さんが電柱などに衝突した車から14メートル先に投げ出されたことを聞いていたことから「祐太は後部座席でシートベルトをしていなかったのだ」と確信して疑ったことはなかった。
梶山さんの妻も取材に応じ「(梶山さんは)もし他人の車を運転していたとしても、時速134キロも出すような人では絶対ない」と話した。
梶山さんには3人の子どもがおり、事故当時3歳、1歳、3カ月だった。妻の代理人弁護士によると、事故で亡くなった2人の遺族には、事故から約4年たった今なお、事故の賠償金が支払われていない。一家の大黒柱を突然失った梶山さんの妻は心情意見陳述で「私がどんな気持ちを持っていたか、子どもたちを守るために必死に生活をしてきたことは、堀田氏は全く知らないのでしょう。本当に悔しいです。夫を返してほしいです」と吐露した。
判決は14日午後3時に言い渡される。【成松秋穂】