沖縄県石垣市の中山義隆市長は1月末、東海大学の調査船で尖閣諸島を洋上視察した。尖閣諸島は石垣市の行政区域だが、中山市長の視察は就任後初めてだ。
調査船が尖閣諸島に近づくと、周辺に常駐していた中国艦船2隻が領海侵入し、調査船を追尾した。だが、調査船の周囲では海上保安庁の巡視船8隻が警護に当たり、中国艦船の接近を阻止した。
尖閣視察に対し、当初は中国政府の反発が予想されたが、抗議の声は足元から上がった。
市議会の革新系野党議員7人が声明を出し、「平和の祭典である北京五輪直前に実施されており、明らかな挑発行為。国際社会からも理解が得られるとは到底考えられず、信義に反する」と主張した。調査が市長選直前に行われたため、「行政を私物化した政治パフォーマンス」と断じた。
野党には市長選に向けた現職批判のアピールという狙いもあったが、世論は中山市長を支持し、逆風はむしろ野党に吹いた。野党は、結果として北京の代弁者のような役回りを演じた揚げ句、選挙でも敗退した。
私が知る限り、この件で中国政府からのコメントは一切出ていない。結局、騒いだのは日本国内の反基地派だけだった。
視察したのが市長ではなく政府要人だったなら、いくら北京五輪前の時期とはいえ、中国政府も黙っていなかっただろう。ただ、日本の一自治体がやることに、「超大国」がいちいちムキになって拳を振り上げることはできない。それが中国のメンツというものだ。
尖閣問題で、地元自治体や民間人が果たすべき役割は決して小さくない。日本政府は日中関係に配慮し、尖閣諸島の実効支配を強化する有効な手を打てずにいる。だが、政府以外なら、中国との正面衝突を避けつつ、今回の視察のように、ある程度思い切った手を打てる。
沖縄県にもできることは多い。ところが、玉城デニー知事は県議会で、今回の尖閣視察について問われ「石垣市長の判断だ」と、自らは距離を置く姿勢に終始した。石垣市を援護する発言はなかった。
沖縄には中国艦船が待ち構えていることを承知の上で、尖閣周辺へ継続的に出漁する漁業者がいる。海保を別にすれば今、この海域の荒波に耐え、体を張って島を守ろうとする日本人が、ほかにいるだろうか。
しかし、国内では「いたずらに中国を刺激する」「漁業ではなく政治活動」と中傷する声が後を絶たない。
今の沖縄で「尖閣を守る行動」を起こすと、前よりも先に後ろから、さらには横からも撃たれる。「言論の自由」とは切ない。だがこれも、尖閣と同じくらい重要な、守るべき価値だ。