「ロシア同様、日本も無差別殺りくをした」 歴史に学び、核廃絶を

「第二次世界大戦中、日本はアジアへの侵略で、米国は日本に空襲や原爆で、ロシアがウクライナにしたことと同じような無差別な殺りくをしてきた」。修学旅行生に被爆体験を語る証言活動を続けている元教師の豊永恵三郎さん(85)は19日、神奈川県の女子高生たちにオンラインで証言した際、冒頭にこう語りかけた。「核の悲劇を繰り返さないために、日本の戦争や歴史をきっちり勉強して考えなければいけない」
横浜市出身。3歳で両親と広島市尾長町(現・広島市東区)に移り、米軍が原爆を投下した1945年8月6日は9歳だった。市内の建物疎開作業に3歳の弟と連れだって行った母親を捜し、父親と翌7日から9日まで中心部に入って入市被爆。2人は爆心から約1・6キロの昭和町(同中区)で被爆した。
差別を知り、在外被爆者を支援
その後暮らした船越町(同安芸区)の祖父母宅周辺には、養豚業を営む朝鮮出身者も多くいた。排せつ物回収時の臭いやうまくはない日本語を理由にからかわれる様子を見て「日本人はひどく差別をしている」と漠然と感じた。こうした少年期が原点となって、長年取り組んできたのが在外被爆者の支援だ。
71年夏、高校の国語教師として教育研修で初めて訪れた韓国・ソウル。日本の植民地支配から解放されたことを記念し、休日となっている「光復節」の8月15日、在韓被爆者から「日韓両政府の支援は何もない」と切実な訴えを聞いた。当時、日本では被爆者健康手帳を取得すれば無償医療などの援護を受けられたが、制度が国内向けの社会保障との位置付けだったため在外被爆者は対象外だった。
「被爆者は日本人だけではない。差別だ」と憤りを感じ、帰国後の同年12月、大阪にできたばかりの「韓国の原爆被害者を救援する市民の会」本部に広島支部の設立を直訴。72年の支部設立後は、初代支部長として在外被爆者の手帳取得手続きを手伝う傍ら、韓国人の郭貴勲(カク・キフン)さんら在外被爆者が原告となった40件超の訴訟の支援に奔走した。勝訴を重ねた結果、援護対象を国内に限る根拠となっていた旧厚生省の「402号通達」が2003年に廃止されるなど国を動かした。海外から手帳を取得できるようになり、各種手当、医療費が国内とほぼ同水準で受け取れるようになった。
「核兵器のない世界を作るのはあなた」
「裁判だけで40年。ここまで来られて本当にうれしかった」。4月には、広島支部の世話人を務める「韓国の原爆被害者を救援する市民の会」の設立50周年集会を広島市で開く。人生の大きな区切りを迎え、被爆体験の継承について思いを巡らせていた時、ロシアによるウクライナ侵攻が起きた。高まる核使用の恐れに危機感を募らせ、「若い人たちにもっと過去の戦争を勉強してほしい」と強く願う。
修学旅行生への証言活動でもその思いを伝えたい。
「憲法9条があるから日本は平和を守ってきた。私たちはもういなくなる。だからみなさんに平和のバトンを渡すんだよ。受け取ってくれたら責任がある。核兵器のない平和な世界を作るのはあなたたちですよ」
これまで証言の最後でこう伝えてきたが、今回の事態に直面して、強い言葉をつけ加えるつもりだ。
「核攻撃が実行されれば、第三次世界大戦になる恐れがある。その危機感を持って、絶対に使わせないように行動しなければいけないよ」
被爆体験継承の場を平和の議論を深める場に
この冬は、新型コロナウイルスの影響で国内外で平和関連のイベントや会議が相次いで延期される中で、被爆体験の継承のあり方について思いを巡らせていた。
今年1月と2月に臨んだ広島大大学院人間社会科学研究科の設立を記念したオンラインセミナー。半世紀にわたる在外被爆者支援を紹介しながら、被爆体験継承について提言した。「被爆者が伝えるだけでなく、若者が自分の平和活動も話せる継承の形を作ってほしい」。被爆体験継承の場が、平和に関する議論をより深める機会になってほしいとの思いを込めた。
豊永さんが取り上げたのは、広島市が2012年に始めた、被爆者の証言を後世に伝える人材を育成する「被爆体験伝承者養成事業」だ。被爆者から聞いてまとめた証言とは直接関係ない政治・社会思想、自身の平和への取り組みなどを講話で話さないように伝承者が指導される点について、「伝えなければいけないのは被爆体験だけなのか」と問題提起。「伝承者自身が平和への思いを伝えていくことも必要」と提案した。
戦後76年がたち、被爆経験者は年々少なくなっている。だからこそ、被爆体験の継承のあり方を真剣に考えてきた。
若者に思いを伝える大事な機会となる修学旅行生への被爆証言。今月13日、約3カ月ぶりに対面で行えた。千葉県の高校生約300人を前に在外被爆者問題や日本の加害の歴史を説明する声にも熱がこもる。熱心に耳を傾ける生徒たちを見て「表情も分かり、思いも伝わる」と改めて実感した。終了後に被爆者健康手帳を見たいと6、7人の女子生徒が集まるなど、対面ならではの触れ合いもあった。「この子たちが自ら平和への思いを伝えていくようになってほしい」
「核で国は守れない」
ウクライナにロシアが侵攻、原発が制圧され、国内で国会議員が核共有を巡り発言するなど、核を巡り緊張が高まる。「核では国は守れない。核廃絶に向けて議論してほしい。核抑止力は絵空事だ」。豊永さんは力を込める。【中島昭浩】