朝日新聞研究 対中人権決議の社説で日本の人権問題を糾弾 「自ら襟を正してこそ…」矛先転じて中国に媚びへつらう〝朝日新聞らしさ〟

衆院本会議で2月1日、やっと中国の新疆ウイグル自治区などでの人権状況に懸念を示す決議が採択された。それについて、同3日、朝日新聞の社説が出ている。
そこには、「『中国』という国名は盛り込まず、事前の調整の過程で、『非難決議案』は単に『決議案』に、『人権侵害』も『人権状況』に改められた」とある。それは、「国交正常化の橋渡し役を務めるなど、歴史的に中国との関係が深い公明党の意向を踏まえた結果だ」と説明し、「本来なら、懸念は率直に伝えたうえで、実際の人権状況の改善につながるよう、粘り強く働きかけを続けるのが採るべき道ではないか」と付け加える。
そして結局、「内容も中途半端との指摘があるが、中国へのメッセージにはなっただろう」と評価して、中国外務省の抗議があったことをその証拠として挙げる。まことに歴史的に中国との関係が極めて深い、朝日新聞らしい社説であるといえる。
しかし、この社説の朝日新聞らしさは、こんな程度ではとても済まない。末尾において、全体の約6分の1のスペースを使って、日本の人権状況に矛先を変えて、批判を展開するのである。
いわく、「決議は、人権問題は『一国の内政問題』にとどまらないとうたった。ならば、日本国内の人権問題の改善も必要で、国連の人権理事会や米国務省の人権報告書などからの指摘も真摯(しんし)に受け止めねばならない」「入管施設での外国人の処遇には問題が多く、外国人労働者らを守る制度も不十分だ。部落差別など解消されていない課題も多い」と問題を列挙し、次のように結論づける。
「自ら襟を正してこそ、他国に人権改善を求める説得力が増す」
中国の人権状況と、まったく比較にならない日本の人権問題を糾弾することによって、人権侵害超大国の中国に対して、朝日新聞らしく媚びへつらっているとしか思えない。
なお、他国の事例を使って、日本を批判するやり方は、映画作品に関する記事でも行われている。
2月9日夕刊に、「イラン出身の監督 死刑問う」という記事がある。イラン映画「白い牛のバラッド」は、夫を冤罪(えんざい)による死刑で失った妻の物語で、イランと同じく死刑制度がある日本で上映して、死刑問題を考えてもらいたいとの記事であった。
この記事の中で、最も興味深いのは、次の箇所である。
「国際人権団体アムネスティー・インターナショナルによると、イランの2020年の死刑執行は、1千人以上の中国に次ぎ、少なくとも246人で世界2位」
中国は、ジェノサイド(民族大虐殺)国家であるうえに、死刑においても断トツの世界1位なわけである。
■酒井信彦(さかい・のぶひこ) 元東京大学教授。1943年、神奈川県生まれ。70年3月、東大大学院人文科学研究科修士課程修了。同年4月、東大史料編纂所に勤務し、「大日本史料」(11編・10編)の編纂に従事する一方、アジアの民族問題などを中心に研究する。2006年3月、定年退職。現在、新聞や月刊誌で記事やコラムを執筆する。著書に『虐日偽善に狂う朝日新聞』(日新報道)など。