日本の「技術士」、国際化へ一歩=技術者が国境を越えて仕事し易く―日本のガラパゴス文化に風穴

一般にはあまりなじみのない技術士(Professional Engineer)の国際化についての話をします。技術士は司法試験合格者、公認会計士、医師、薬剤師のように国家資格です。基礎科目、適正科目及び専門科目からなる第一次試験に合格して、4年以上の実務経験を積んだ後、専門知識、応用能力、問題解決能力及び課題遂行能力を問う第二次試験に合格すると技術士資格が与えられます。2021年度の第二次試験合格率は8.6%でした。インフラの安全性の確保が重要な建設部門では技術士の役割が特に大きいです。技術士、司法試験合格者、公認会計士、医師、薬剤師は国家資格を収得しても国境を越えての仕事ができません。他国でその職業に就こうとすると、更にその国での資格を取らなければなりません。技術者が国境を越えての仕事がしやすくなるような世の中を作りたいという「夢」の実現のため活動しているInternational Engineering Alliance(IEA)という組織があります。その組織の中でリーダー的役割を担っているのがエンジニアリング教育認定団体の世界的な枠組みであるワシントン協定です。1989年に米国、カナダ、英国、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランドの6カ国の団体によって設立されました。日本からは日本技術者教育認定機構 (JABEE)が2005年に正式加盟しています。現在、正式加盟団体は21の国または地域におよび、正式加盟に向けて準備をしている暫定加盟国が7つあります。それらを合わせると世界人口の3分の2をカバーすることになります。ワシントン協定の正式加盟団体はそれぞれの国内、地域内で認定したエンジニアリング教育プログラム(大学の学科に相当)の同等性を相互承認しています。多くの国,地域では、認定された教育プログラムの修了生のみが技術士になる資格があります。技術士試験においてもそうですが、日本の国家資格試験の多くは教育要件が課されておらず、試験さえ受かれば資格が取れるようになっています。世界から見ると特異な状況です。ワシントン協定では、認定した教育プログラムの同等性を相互承認していますから、ワシントン協定の正式加盟団体が認定した教育プログラムの修了生がワシントン協定の他の加盟国、地域で技術士になれるプロセスを促進しています。しかし日本では技術士になるには教育要件がなく試験さえ受かればよいので、上記のワシントン協定の目指すプロセスに乗れないという問題がありました。