「人命が一番大事。安全を徹底してほしい」。北海道・知床半島沖で26人乗りの観光船が消息を絶った事故で26日、死亡が確認された乗客の遺族は悲痛な思いを打ち明け、知人らも悲しみにくれた。現場海域では同日午前も、海上保安庁や地元漁船などが懸命に捜索を続けた。
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死亡が確認された香川県丸亀市の河口洋介さん(40)の両親が26日朝、
女満別
(めまんべつ)空港(北海道大空町)で読売新聞の取材に応じた。
河口さんは同市に隣接する同県坂出市役所に勤め、両親と3人暮らしだった。「旅行好きのごく普通のまじめな子」で、今回の旅行を楽しみにしていたという。
河口さんの遺体とともに空港へ向かう車内ではほとんど会話がなく、沈黙の時間が流れた。「事故がなかったら息子は無事だった」と父親(76)は悔しがり、母親は隣でハンカチを目に当てて涙ぐんだ。
観光船を運航する会社の対応には、やりきれない思いが残る。関係者向けの説明会は開かれたが、運航会社の社長はうつむくばかりで聞かれたことに対して最小限しか答えなかったという。「事業も大事だが、やっぱり人命尊重が一番大事。安全を徹底してほしい」。父親は声を振り絞った。
河口さんの地元では知人らが悲しみにくれた。
複数の同僚によると、河口さんは民間企業を経て、十数年前に入庁。企業誘致やスポーツ振興などの仕事に取り組み、最近は生活環境課係長として、環境保全業務を担当していた。高校時代は野球部で活躍し、市役所では、ソフトボール部に所属していた。
元上司の男性(69)は「穏やかで口数は少ないが、しっかりしている部下だった。職場では、息子のように思っていたので、ニュースを聞いてショックだ」と話した。高校時代の恩師の男性は「事故は防げたのではないか。天寿を全うできなかった彼を思うと非常に残念で、悔しい」と話した。
一方、26日朝、安否が分からない乗客の家族らに対する捜索状況の説明会が北海道斜里町内で行われ、海上保安庁などが現状を伝えた。
険しい表情で足早に進む男性、うつむき加減で重い足どりの夫婦――。会場へ向かう家族らの顔には、焦燥感や悲しみが浮かんでいた。親族が行方不明になっている男性は、説明会に向かう前に「報道されている範囲の情報しか得られていない。早く見つかってほしいという思いだけだ」と、いら立ちを募らせた。