ここにきてまた「明治神宮外苑の再開発」が注目されています。外苑内の1000本近い樹木が伐採される見通しだからだ。
ご存知ない方も多いと思うので、まずは流れをおさらいしたい。
そもそも、明治神宮は、明治天皇と妻の昭憲皇太后を祀る社殿がある「内苑」、国立競技場などの施設がある「外苑」から構成されている。
今回、再開発計画が持ち上がっているのは「外苑」の方。明治神宮外苑は東京都の港区、新宿区、渋谷区にまたがり、その広大な敷地の中には、神宮球場、秩父宮ラグビー場などのスポーツ・文化施設がある。
この地区を再開発し、老朽化した神宮球場、秩父宮ラグビー場を建て替えて、オフィスや商業施設が入る高層ビルなどを建築する計画らしい。
説明なく、樹木1000本を伐採へ
私はこの樹木伐採の件を、毎日新聞の「風知草」というコラムを読んで知った。特別編集委員の山田孝男氏が「神宮外苑、危うし」と書いているのだ。
《国民の献金・献木・奉仕で造営された明治神宮外苑の樹木約1000本が、外苑南側の再開発で切り倒される――と聞いた(※)。神宮球場、秩父宮ラグビー場移転を含む計画の一部で、伐採の説明はない。》(毎日新聞・2月7日)
※筆者注 明治神宮が創建されたのは大正9(1920)年。建設にあたり、樹木の奉納を呼びかけたところ、全国から約10万本が寄せられ、11万人が造営工事の勤労奉仕を行った。
冒頭から驚いた。1000本が伐採されるのに説明はない? えっ?
《ビジネス最優先、防災軽視、歴史無視の〈古い資本主義〉であり、公共緑地をあえて創った外苑整備の精神を著しく踏み外している。》
この事実を突き止めたのは都市環境計画の権威、石川幹子・中央大学研究開発機構教授だった。石川氏は再開発計画を進める事業者が都に提出した資料と空撮写真を突き合わせ、地上を歩いて木を1本ずつ調べて数えあげた。そうして1000本の樹木が伐採されることが明らかになったのだ。
計画の詳細が都民に示されたのは「昨年の12月14日」。縦覧期間はたったの「2週間」。まるで情報共有を避けられていたようにもみえる。外苑を知り抜く石川氏だからこそ、こんな短期間でも問題点を洗い出せたのだろう。
それにしても、ギョッとする話である。もっと話題になっていいはずだ。
すると翌日、東京新聞が一面トップで報道。
『歴史の緑 1000本風前 神宮外苑 再開発の伐採計画判明』(2月8日)
やっぱり驚く話だよねぇと思っていたら、翌日の2月9日に再開発の計画案が東京都都市計画審議会で賛成多数で承認。
『神宮外苑 再開発を承認 100年の森 900本近く伐採へ』(東京新聞・2月10日)
この記事で注目したのは、今回の再開発により「高層計画 次々」という部分。そうか、やはりここに行き着くのか。
規制緩和の鍵は、東京五輪?
今から3年前、朝日新聞も報じていた。
『神宮外苑 高層化なし崩し』(2019年7月25日)
スクープというより「東京五輪まであと1年」的な記事だったが、大事なことがたくさん書いてあった。抜粋する。
〈《日本初の風致地区(※)に指定された明治神宮外苑地区(東京都港区、新宿区、渋谷区)。「都心最後の一等地」と言われた一帯でいま、高層ビルが「雨後のタケノコ」のように生まれている。
地区の景観を半世紀ほど守ってきた建築物の高さ制限が緩和されたためだ。この2年間に着工したり、完成したりした50メートル超のビルは4棟。2020年東京五輪後には、さらに200メートルに迫るビル2棟も建つ計画だ。
呼び水になったのが、20年大会の招致だった。》
※筆者注 風致地区=良好な自然的景観を保持するため、都市計画法で指定される地域。〉
キーワードは「高さ制限」である。明治神宮外苑は「風致地区」に指定されており、「15メートル」を超える建物を建てることができなかった。
ところが東京五輪招致に向け、国立競技場を運営する日本スポーツ振興センター(JSC)が動いた。まず2012年に新国立競技場のデザインとして、英国の建築家ザハ・ハディドによる案が採用される。ザハ案の高さは「75メートル」で、案の定、周囲の景観を損なうなどと問題化。しかしその翌年、一部の建物の高さ制限が「80メートル」に引き上げられたのである。
これは何を意味するか? つまり新国立競技場だけでなく、その周囲にも高層ビルを建ててもオッケーということになる。
再開発の背後に「あの男」
さらに時をさかのぼろう。今から7年前の週刊誌「AERA」の記事だ。
『新国立競技場計画を迷走させた「5人の男」 すったもんだの末、白紙撤回』(2015年9月14日号)
ご存じの通り、ザハ案は白紙撤回された。その約2ヶ月後に書かれた記事だが、ハッとする個所がいくつもある。
《神宮外苑の高さ規制が緩和される10カ月前、公募が始まった新競技場の国際デザインコンペの基準には、すでに高さが「70メートル以下」と書かれていたのだ。JSCが決めた基準を都の審議会が追認した形になる。背後にどんな力が働いていたのか。》
そしてある人物の名前が出てくる。
《都内の貴重な緑地として環境が守られてきた神宮外苑。「山手線内に残された最後の再開発地」と、不動産開発業者の垂涎の的でもあった。「規制を取り払うのは五輪誘致しかないと言われ、森の動きが注目されていた」》
「森の動き」とは森喜朗のことである。
《再開発には一帯の大地主である明治神宮の協力が不可欠だ。森は宗教法人を管轄する文科省に強い影響力をもつ。》
「五輪便乗焼け太り案件」
外苑地区にある「日本青年館」の建て替えにも言及していた。「移転経費174億円」に注目し、これこそ永田町界隈で「五輪便乗焼け太り」といわれる案件だというのだ。
《築36年のビルを新競技場の周辺整備と称し、税金を使って建て直す。(中略)青年団を出身母体とする自民党政治家は少なくない。今回の建て替えでも自民党の有力議員が動いた、と言われている。》
ここで最近に話を戻し、今年4月23日の東京新聞一面を見てみよう。
『外苑再開発の背景 明治神宮の財政 維持費が圧迫』
いろいろと話が繋がってくるではないか。維持費が問題とはいえ、次の部分も気になる。
《外苑は、明治天皇と昭憲皇太后の遺徳をしのぶため、国民からの寄付、献木、勤労奉仕という民間の力で整備されたことなどを踏まえ、神社界には「創建時の趣旨とは違う形で変貌する」と再開発に否定的な声もある。》
こういう歴史と伝統を大切にするのって、保守派を自認する方こそ声を上げるべきだと思う。森喜朗をはじめ、保守派の人たちは一体何をしているの?
“東京五輪の影”を感じてしまう
明治神宮外苑の再開発は、東京五輪がどうしてもセットに見えてくる。そして私の頭の中には、こんな見立てが浮かぶのである。
東京五輪招致(新国立競技場の建設)は外苑地区再開発の“アリバイ”として使われたのではないか?
五輪招致の「真の目的」とは何だったのか。「樹木約1000本を伐採」のニュースを見て、あらためて疑問に思った。
では、東京都はどう対応すべきか。次の見出しが、全てではないだろうか。
『「先見の明ある先人の財産 残すのが賢明な街づくり」 外苑伐採 都民から再考求める声次々 都が「意見を聴く会」』(東京新聞・4月16日)
ほんとうに「保守派」は何をしているの?
(プチ鹿島)