ディズニーシーでの「ニセ赤ちゃん」事件も?中国人転売ヤーの実態を当事者が激白

SNSでもたびたび傍若無人な姿が報告される転売ヤー。だが、当事者、特に中国人転売ヤーの実態はほとんど明らかになっていない。彼らの口から語られた組織的転売のシステムとは!?

◆転売グループが語ったボロ儲けのスキーム

5月10日、ソニーグループが’21年度決算を発表した。決算説明会では、PS5の出荷台数に関する質問が相次いだが、十時裕樹副社長兼CFOは「需要はもう少し高いレベルにあると見ており、まだ若干足りない。部品調達は諦めずに追求する」と述べ、品薄状況の打開を宣言した。

ただ、PS5が欲しい人になかなか行き渡らない原因は、コロナ禍やウクライナ戦争による半導体不足、それに伴う物流・生産の停滞だけではない。日本で販売されているPS5のかなりの割合が、“外国”に流出していることも一因だ。その背景には、転売ヤーの跋扈がある。

「1月、池袋の雑居ビルの玄関先で、品薄のPS5の箱が山積みになっている写真があるブログに掲載されました。その数、ざっと100箱。同ビルには、家電の海外輸出を営む中国系企業が入居していたことから、『PS5の中国流出の一端をとらえた写真』として話題となったのです」(ゲーム情報サイトのライター)

◆買い子希望者を装ってメッセージを送ると…

そう、今も昔も転売ヤーの中心にいるのは在日中国人だ。転売事情に詳しいライターの奥窪優木氏は言う。

「組織的な中国系の転売グループの存在が明らかになったのは’13年のPS4の発売でした。あれから約9年。入手困難なあらゆる商品には彼らの影がつきまとうようになりました。商材の多くは、国内で転売されることは少なく、ほとんど中国へ輸出されます。メルカリなどで出品されているのは、あくまで日本人転売ヤーによるものです」

さて、PS5は現在でも中国系転売ヤーのメイン商材のひとつとなっている。中国のチャットアプリ・WeChat(微信)に設けられたコミュニティには、PS5の“買い子”を募集する転売業者の書き込みがいくつも投稿されているのだ。

SPA!は中国系転売グループの実態を取材すべく、買い子希望者を装ってメッセージを送ったところ、後日、早朝にいきなり呼び出しがかかった。

「今からヨドバシカメラ秋葉原店でPS5が300台販売されるけど、行けるか? 報酬は1台につき1万円。ほかにも買いに行ける友人がいれば連れてきてくれ」

PS5を1台購入するだけで1万円もらえるとは、なかなか太っ腹にも思える。しかし、中国最大のECサイト・タオバオなどを見ると、廉価なPS5デジタル・エディション(希望小売価格3万9980円)でさえ12万~17万円ほどで販売されている。転売業者にとってはその程度の報酬を買い子に支払っても、十分に利幅があるのだ。

現在、家電量販店などPS5を扱う店の多くは、自社発行のクレジットカードでの購入を条件とするなど、複数購入を防止する方策をとっている。そのため、転売業者は常に新規の買い子を募集し続けなければならないのだ。

◆ディズニーシーでの「ニセ赤ちゃん」事件も?

転売ヤーの標的となるのはPS5だけではない。3月には、スウォッチの渋谷店や原宿店などでオメガとのコラボ商品が発売される予定だったが、客が殺到して混乱状態となり販売が急きょ中止に。現場に居合わせたネット民からは「中国語を話す集団が大人数で列に加わっていた」などという報告もあった。

さらに4月には、ディズニーシーで、「お一人様一点限り」のキャラクターグッズ購入のための整理券に長蛇の列ができたが、SNSでは繰り返し並んだり、精巧な赤ちゃんの人形を抱いてまで複数枚の整理券を獲得する者もいたことが報告された。

中国ソーシャルコマースアプリ「RED(小紅書)」には、ディズニーシーでの買い占めの様子を自撮りした動画を投稿しているアカウントもあった。ちなみにREDはインスタグラムとメルカリが合体したようなアプリ。獲得したフォロワーに対して商品を販売することができる。

◆「定価2300円のぬいぐるみが1万円で」

SPA!はWeChatを通じてディズニーグッズの転売をしているという30代の中国人女性と知り合うことができた。彼女はこう答えた。

「上海ディズニーランドがコロナの影響で休園中ということもありますが、『東京』のグッズの品質は世界一と言われており、中国のディズニーマニアの間では人気が高い。REDにディズニーグッズの画像を投稿し、フォロワーの反応を見て商材や価格を決めています。

騒動になった4月の販売も参戦しました。利益は言えませんが、定価2300円のぬいぐるみがREDではだいたい1万円で売れますよ。ライバルの中国人もたくさんいましたが、ライブコマースのように店内の模様を動画配信し、その場で注文を取ってるツワモノもいました」

今後、パンデミック下では控えられていた実店舗での各種「限定品」の販売が、感染状況の落ち着きとともに復活するに従い、こうした転売ヤーたちの活動も活発化していきそうだ。

◆羽生結弦グッズを1200万円分購入

さらに取材を進めると、東京を拠点に活動する在日中国人転売ヤーのリーダー格・X氏とコンタクトがとれた。彼はまず、売れ筋商品についてこう語りだした。

「冬季北京五輪以降、中国の転売市場で人気が続いているグッズが2つある。ひとつは公式キャラクター・ビンドゥンドゥン関連。もうひとつが羽生結弦。私はここ数か月間、ほぼ羽生グッズ専門で転売ビジネスを行っている」

後日、取材班はX氏の買い付け現場に同行することを許された。待ち合わせ場所は東京・日本橋。そこから2人で向かったのは、日本橋髙島屋で催された「羽生結弦展2022」の会場だ。

入場は公式サイトでの事前予約制。期間中の枠はすべて「予約済み」となっており、さすがの人気をうかがわせた。しかしX氏は、WeChatで予約代行を呼びかけ、初日から千秋楽まで複数の枠を押さえたという。

「『予約一枠当たり5000円で買い取ります』って募集をかけたら、全日程で40枠ほど取れました」(X氏)

会場には予約時に発行されたQRコードを提示して入場するが、本人確認はなかった。

◆物販コーナーに直行、約30万円購入し…

中に入ると羽生が着用した衣装や、未公開写真など展示されてあったが、X氏はそれらには目もくれず、物販コーナーに直行した。

「転売行為はお控えください」という注意書きがあるその場所で、X氏はトートバックやストラップなどをそれぞれ5点ずつ、買い物かごへと放り投げる。同一商品の購入は、一人当たり5点までに限定されているからだ。レジでの会計は、締めて約30万円。

「毎回、大量に買うので、店員さんとはもう顔なじみですが、特に文句を言われたことはない。ほかのお客さんの視線は冷たいけどね」(X氏)

◆「売れ残るリスクもほとんどない」理由

X氏はこの日、自身のほか、WeChatで日当2万円で募集した買い子を動員。一日平均60万円相当の羽生グッズを連日買い付けているという。

20日間で約1200万円分の買い付けということになるが、「中国に持っていけば2~3倍でも売れる。なかでも定価2000円のトートバッグは5000円以上になる」とX氏。売れ残るリスクもほとんどないという。なぜか。

「REDのフォロワーに対して商品を転売することができる。私はジャンルごとに複数のアカウントを持っていますが、羽生結弦をテーマにしたアカウントには600人のフォロワーがいる。彼らに向けて、あらかじめ『羽生結弦展ではこんな商品が売られていますよ』とプレゼンして、商品の購入希望を募っているんです。フォロワーの中には転売業者もいるので、大口で注文も入ってくる。商品の需要を先に把握したうえで購入しているので、不良在庫を抱える心配はない。上海のロックダウンの影響による物流の遅延や国際小包の値上げは不安定要素ではありますが、熱狂的なファンはいくらでも待ってくれますよ」(同)

日本のEコマースでは無在庫販売は厳しく禁止されているが、中国では野放し状態。あらかじめ購入希望者を概算できる仕組みも、中国への転売を活発化させているのだ。

◆情報源はWeiboのコミュニティ機能

では、転売商材はどうやって情報収集しているのか。フィギュアスケートになんの興味もなかったと言うX氏が羽生グッズに目をつけたきっかけをこう述べる。

「中国のSNS・Weiboに『超話』というコミュニティ機能があり、そこをチェックするとどんなグッズがトレンドなのかがよくわかる。羽生の超話には150万人が参加していることを知り、これだと思った。ディズニーグッズや人気アニメ、限定ブランド品の転売をしている人たちも同じように、超話で情報を集めていると思います」

さらに、中国を拠点とする転売業者が指定した商材の買い付けを代行するケースも。X氏から紹介されたのは、別のグループのボス・Z氏だ。

「商材の購入難度などにもよるが、並びさえすれば買える限定ブランド品などの場合、定価の2~3割程度を代行費用として受け取っている。最近アツいのはウイスキーだね。『山崎』や『響』。ツールを使ってECサイトで買ったり、郊外の量販店などに買い付けに行ったりしてるけど、中国では最高で定価の7倍までいくからね。先方の希望する量が集まったら中国に一括発送して任務完了。先方はそれらを中国で小売店に卸したり、Eコマースで販売する。ウチはやってないが、PS5の転売もそういう仕組みになっている。コロナ禍で日本に行きたくても行けないことや、円安による割安感も手伝って、日本からの転売品に対する中国人の購入意欲はますます高まっていますよ」

◆転売ヤーを排除することはできるのか

巨大な転売マーケットが日本以上に成熟しているようだが、中国人はなぜ転売行為を続けるのか。中国事情に詳しいフリージャーナリストの中島恵氏はこう話す。

「ひとつには、転売品でしか手に入らないような希少なものを持ちたいという、見栄の文化があるのでしょう。富裕層の間では『見栄を張るのはカッコ悪い』という意識も広がっていすが、これまで見栄を張りたくても張れなかった中間層が、購買力をつけてきています。中間層は人口も多いので、見栄の文化を背景とした転売市場はしばらく存在し続けるでしょう」

ただ、こうした海外勢の転売の標的となる商材が、日本で品薄となってしまうのは困った事態である。過度な転売行為を食い止める、法的な対策はないのか。骨董通り法律事務所の福井健策弁護士はこう話す。

「’17年に転売禁止のチケットを転売目的を隠して転売していた男が詐欺罪に問われ、有罪判決が出ました。その後、東京五輪を前にチケット不正転売禁止法という法律が施行されましたが、チケット以外の転売行為にもこの先例は有効だと思われます。ただ、実際に詐欺罪で立件するかどうかは、警察のやる気次第というところもある。例えば、商品の販売時に購入者に『転売を行わない』という契約を結ばせることで、ある程度の抑止効果も期待できるのでは」

中国人の爆買いは日本経済の頼みの綱であることも事実だが、両国の消費者が共存できるような仕組みになってほしいものだ。

◆「転売」めぐる日中の文化的摩擦

中国系転売ヤーの跋扈に対し、日本のネット上では批判囂々だが、両国民の意識の違いについて中国人ジャーナリストの周来友氏はこう指摘する。

「日本では、転売の規模やその影響に関わりなく、基本的に100円で買ったものを120円にして売るということにネガティブなイメージがある。でも日本以上に『経済活動の自由』が尊重される中国では、それは商売上手なだけ。コンサートのチケットなど、物理的に数に限りあるものの買い占め行為はもちろん中国でも批判されますが、ブランドの限定販売などを転売ヤーが買い占めても、数量を限定するほうが悪いという考え方もある。行政も、転売業を雇用創出の観点から黙認しています」

歴史的な背景も影響している。

「計画経済時代(’50~’80年代)の中国では、食料や生活必需品は配給券がなければ手に入らず、お金さえ払えば売ってくれる転売業者は重宝されました。中国の転売文化はここから始まったと言っていい。多くの中国人は多かれ少なかれ、転売屋の恩恵にあずかった経験があり、若者世代も親からそうした考えを受け継いでいます」

中国系転売ヤー問題は、文化摩擦の一種でもあるようだ。

【周来友氏】
’87年に留学生として来日。東京学芸大学大学院を修了後、通訳などを経てジャーナリストに。中国問題のコメンテーターとしてテレビでも活躍中

取材・文・撮影/アズマカン 広瀬大介 児玉ジン 図版/佐藤遥子