安倍元首相、銃撃の詳細判明 最初の発砲に振り向き、2度目で倒れる

奈良市の近鉄大和西大寺駅前で8日午前、街頭演説中だった自民党の安倍晋三元首相が銃撃された事件は大勢の聴衆がカメラを向ける中で起きた。安倍氏がマイクを握ってから、凶弾に倒れるまでの時間はおよそ1分30秒。「AED、AEDを、どうかお助けください!」。関係者の悲鳴のような声が響く。安倍氏は現場で心肺停止となった。目撃証言や当時の映像から、犯行当時の状況が明らかになってきた。
大和西大寺駅を出て、車道を渡ったガードレールの内側。午前11時29分ごろ、安倍氏はここで街頭演説に立った。参院選奈良選挙区の自民公認候補、佐藤啓氏の応援のためだった。
首相在職日数で歴代最長を誇った人気政治家。そんな安倍氏が語り始めると、多くの人がスマートフォンのカメラを向けた。
「あのコロナ禍で、緊急事態宣言の対象、あるいは蔓防の対象となっても…」
テレビでおなじみの安倍氏の声。抑揚をつけ、聴衆を引き込むように言葉をつむいでいく。
安倍氏がかたわらに立つ佐藤氏を指さしながら、声のトーンをさらに上げる。
「彼はできない理由を考えるのではなく」
演説開始から1分30秒ほど。安倍氏がそう語った瞬間だった。ガードレールを超えた安倍氏の背後の車道から「ズドーン」と大砲のような音が響いた。あまりの音量に周囲の人が体をこわばらせ、「おおっ」とどよめきが起きる。
当時の映像から、安倍氏が一瞬、音がした方向を振りむくようなそぶりを見せているのが分かる。車道にいた男と安倍氏の距離は5メートルほど。男から安倍氏の方向に向かって白い煙がたなびく。さらにもう一度発砲音がした。
2回目の発砲の後、安倍氏が倒れた。「地面にたたきつけられるような倒れ方ではなかった。周りにいるものに支えられるように、ゆっくり寝かされる感じだった」(自民関係者)
背後にいた男が、SPとみられる複数の関係者に取り押さえられる。その後両手両足を抱えられるようにして連行されていった。
現場にいた自民県議は男が使用した銃器について「2本の水道管みたいな鉄パイプを30センチぐらいに切って黒のテープみたいなので巻き、ショットガンのような形にしていた。既成の銃ではなく、手作りだと思う」と証言した。
安倍氏は路上にあおむけにされ、近くにいた看護師が心臓マッサージをしていたという。県議によると、安倍氏の白いカッターシャツの胸あたりが血に染まっていた。関係者が「AEDをお持ちください。お医者さまはいらっしゃいませんか!」「AED、AEDを」とマイクを使って何度も叫んでいた。