増加する中年暴走族。迷惑運転を繰り返す彼らの言い分とは

今年6月、神奈川県川崎市で43歳の暴走族リーダーが逮捕された。同事件は暴走行為のみならず、少年への脱退妨害なども問題視されたが、気になるのはその年齢である。この3日後には滋賀県でも中年暴走族による騒ぎが勃発。暴走する中年たちの本音に迫った。

◆旧車會のメンバーは10年で2倍以上に

警視庁によると、少年を中心とした暴走族は’05年から’15年末までに約4割減ったという。それとは対照的に旧車會(暴走族よりも平均年齢が高く、バイクによる迷惑運転を繰り返す傾向のあるグループ)のメンバーは、同期間で2倍以上に増えている。

爆音を鳴らし、我が物顔で街を駆け回る暴走族。市民を悩ませる彼らは、なぜ高齢化しているのだろうか。アウトロー文化に詳しいバーチャルYouTuberの懲役太郎氏に聞いた。

「年を取ってもなお暴走行為を続ける人たちのほとんどは、若い頃に暴走族に属していた面々。10代の頃は警察に追尾されたり、そもそも免許がなかったりと、車体を失うリスクがあるので高いバイクには乗れなかった。

それが30代、40代になり、収入が増えたことで昔憧れていたバイクを買うことができるようになる。地元の仲間が一人買い、また一人が買う。そのようにして、自然発生的に暴走族は高齢化していったのです」

◆稼ぐようになり粋な旧車を買い俺の血が騒いだ!

九州地方の旧車會に属する40代の男性は、今でも暴走まがいの走行をしてしまう一人。胸の内をこう話す。

「暴走族の総長をしていた18歳当時、私は逮捕されました。1年間、少年院に入った後に社会へ出ると、仲間たちはすでに族を引退していた。自分だけ完全燃焼できなかったというモヤモヤがずっと消えなかった。

30代半ばになると、同じような思いをしていた人たちとツーリングをするようになりました。初めは人里離れたところで、空吹かしをしていただけでした。でも昔の血が騒ぐのです。どんどんエスカレートして、気づいたら市街地でも爆音で走るようになってしまった」

◆「暴走行為で捕まるのは、ある意味勲章」?

大人になっても暴走行為をやめられない理由はほかにもある。一部ではあるが、中年暴走族が憧れの対象になり、自分を客観的に見ることができなくなっている現実もある。関西地方の旧車會でリーダーを務める50代の男性は語る。

「俺たちは若い子らには到底買うことができない旧車を、熟練の技術でもって乗りこなしている。たまに俺たちのツーリングに参加したいと、暴走族の若い子が頭を下げに来るよ。吹かしのテクを教えた日には、興奮してスロットルを握る手が震えていたね」

中年暴走族による事件は全国各地で多発している。特に千葉県富津市で起きた「旧車會ヘリ追跡事件」などは、周囲で大変な騒ぎになったことが容易に想像できる。

しかし、20年前まで沖縄で暴走族の総長をしていたというA氏は、「捕まった3人の心境は手に取るようにわかる」と言う。

「暴走行為で警察に捕まることは、ある意味、勲章でもあります。そのうえ、ヘリに追われたとなれば周りは崇め奉り、本人たちも後世まで語り継がれる伝説のように、今でも自慢していることでしょう」

◆入れ墨が怖くて追い抜けやしない

だが、そんな中年暴走族たちも、昔と違ってしたたかさを身に付けているから厄介だ。A氏が続ける。

「ほとんどの場合、安全を担保するため、所轄の県警にバイク何台でどこを走るという計画書を提出しています」

根回しをしているとはいえ、住民からすれば知ったことではない。川崎市に住む30代の主婦は憤りを隠さない。

「私の住んでいる地域では、週末になると昼夜問わず暴走行為をするバイクが何台もいます。スピードを出すだけではなく、ゆっくりと我が物顔で道路を占拠するように走るんです。追い越したいのはやまやまですが、入れ墨が見えたりして、怖くて追い抜けません。それも少年ではなく中年男性たちがイキっているじゃないですか。子供にはあんな大人になってほしくない。見せるのも嫌」

もちろん、交通ルールを守ったうえで走行を楽しむ旧車會もある。だが、「交通ルールを守らない場合、旧車會という名を借りた、ただの暴走族です」と懲役太郎氏は言う。

「多くの旧車會には交通安全や法令遵守の意識があります。しかし、暴走行為をする旧車會は一般人にとっては暴走族となんら変わりないでしょう」

暴走行為に対する警察の警戒はさらに強くなるかもしれない。中年たちはどこへ向かって走っていくのだろうか。

◆「暴走族ではなく旧車會」と主張して暴走する大人たち

「ブンブンブンブン!」

5月某日、三重県の幹線道路に鳴り響くエンジン音。40台近いバイクの集団が駐車場に止まった。相変わらずエンジンは吹かしたままである。時刻は22時を過ぎているが、近隣の子供たちは眠りにつけるのだろうか。

実はこの集団、旧車會YouTubeチャンネル「マウンテンスター」を運営するご一行。番組のプロデューサーである男性R氏に話を聞けた。一体、本人はどんなつもりで走っているのだろうか。

「私は16歳から18歳まで三重県でヤンチャしていました。旧車會に入ったのは30代になってから。カネを稼げるようになり、また昔の仲間と、さらにカッコいい旧車で走りたくなったんです。旧車には歴史がある。僕らは暴走族ではなく、あくまで愛好家だと思っています」

◆彼らの言い分は…

確かにヘルメットをかぶり、信号無視もしていないようだが、40台が一斉にエンジンを吹かすのはさすがに迷惑ではないのか。

「10代のときのように、交差点を封鎖して旋回したり、バットを振り回しながら走ったりはもうしないですよ。ちょっとはうるさいかもしれませんが、住民にも旧車ファンはいるはずですから」

そう話すと、再び爆音を鳴らし幹線道路を走り抜けていった。

【懲役太郎氏】
バーチャルYouTuber。「懲役太郎チャンネル」の登録者数は42万人を超える。近著に『常識として知っておきたい裏社会』(彩図社)がある

【元総長A氏】
41歳。沖縄の某暴走族の元総長。現在は広告関係の仕事に就き、更正しているが、全国各地の暴走族や旧車會との繋がりは今も健在

取材・文/神里純平