「戦う政治家」安倍氏の首相退任後も中傷続々…批判が先鋭化・演説を妨害

街頭演説中の銃撃で死亡した安倍晋三・元首相は歴代最長政権を築き、内政・外交面で大きな足跡を残した一方、信念に基づく強い姿勢ゆえに反感を持つ勢力からは激しい批判を浴びた。首相退任後も、インターネット上では中傷めいた発信が続いていた。

安倍氏の小学生時代に家庭教師を務めた自民党の平沢勝栄衆院議員は8日、「『安倍氏になら何を言ってもいい』という空気がエスカレートしていったことも考えられる。今回の事件がそれに起因しているとは思わないが、そういった風潮は反省すべきだ」と記者団に語った。
安倍氏に近い柴山昌彦・元文部科学相は「安倍氏は主張が明確な『戦う政治家』だったので、様々な批判の対象になった」と指摘する。
安倍氏への攻撃が激しくなったきっかけの一つが、2015年の安全保障関連法案の審議だ。国会周辺に詰めかける学生デモの参加者は「アベ政治を許さない」などと書かれたプラカードを掲げた。同年8月には、野党共闘を主導した大学教授が「暴力をするわけにはいかないが、安倍に言いたい。お前は人間じゃない。たたき斬ってやる」と言い放った。

リベラル派を自任する集団が選挙演説を妨害するような活動も増え、安倍氏は遊説日程を公表しない対策を取ることもあった。
17年7月、東京都議選の応援で安倍氏が演説中、一部の聴衆が横断幕を手に「安倍辞めろ」などと叫んだ。安倍氏はその場で「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と応酬。野党は「国民の声を聞かないのか」と批判を浴びせた。
19年参院選では、札幌市内で演説中の安倍氏に、男女2人が「安倍辞めろ」とヤジを飛ばし、警官が制止した。2人は「政治的表現の自由を奪われた」として北海道に損害賠償を求める訴訟を札幌地裁に起こし、22年3月に勝訴した。
安倍氏が批判に対し、時に感情的に反論したことや、森友・加計学園や「桜を見る会」の問題で説明が不十分だったこともあり、「安倍批判」には拍車がかかった。新型コロナウイルス対策の布マスク配布などもやり玉に挙げられた。野党は首相退陣後も、安倍氏に矛先を向ける場面が目立った。
昨年12月の参院予算委員会では、共産党の小池書記局長が、国の基幹統計の不適切処理について岸田首相に質問する際、森友問題などを挙げ、「安倍政権時代からの異常な体質だ」と追及した。
ツイッターなどのSNS上では、安倍氏に批判的な人によるものとみられる「うそつきは安倍の始まり」「安倍死ね」などとの書き込みが行われている。

安倍氏が首相在任中、プーチン露大統領との平和条約交渉で、経済協力を推し進める一方、北方領土の4島返還要求で一定の譲歩をしたことを巡っては、ロシアのウクライナ侵略を機に、本来は政治信条が近いとみられる保守派からも安倍氏への不満が出ていた。