岸田首相は参院選勝利を受け、秋の臨時国会での補正予算編成を視野に入れ、ロシアのウクライナ侵略などによる物価高への対応や看板政策「新しい資本主義」の具体化を急ぐ。防衛力の強化に向けた財源の調整や新型コロナウイルス対策と経済活動の両立など、多くの難題が待ち受けている。
「新型コロナ、ウクライナ、価格高騰対策、こうした大きな課題にしっかりと取り組み、日本経済の再生に向けて努力していく」
首相は10日夜、NHK番組でこう意気込みを語った。
与党の獲得議席数は、首相が勝敗ラインに設定した「与党で非改選を合わせた過半数」に必要な計55議席を大きく上回り、主要閣僚からは「首相の低姿勢でまじめな政治姿勢が評価された」と
安堵
(あんど)の声が漏れた。
首相は、参院選後に取り組む課題として、コロナ禍で傷んだ日本経済の再生を挙げている。8月にも内閣改造・党役員人事を行い、政権の新たな陣容を整える考えだ。
読売新聞社の世論調査では、岸田内閣の支持率は発足から約9か月の間、常に5割を超える安定感を見せている。もっとも、高支持率を維持できたのは、これまで重い政策課題は先送りしてきたことも大きい。
今後の政権運営に大きな影響を与えるのが、安倍晋三・元首相の死亡だ。安倍氏は首相として歴代最長政権を築き、退陣後も自民最大派閥のトップとして強い発言力を発揮してきた。
特に防衛力の強化を巡っては、安倍氏は「北大西洋条約機構(NATO)諸国並みの対国内総生産(GDP)比2%以上」を求め、財源は国債で賄うことを主張し、党内議論のけん引役となっていた。
経済財政分野を含め、党内のこれまでの政策調整では、「明確な国家像を描く安倍氏が大胆に踏み込み、首相がブレーキをかけるという絶妙な役割分担が行われていた」(党幹部)という面がある。菅内閣の閣僚経験者は安倍氏という党内力学の中心が失われたことについて、「防衛費の財源探しなどで保守派の意見が分散し、取りまとめが難航しかねない」と懸念する。
首相は「新しい資本主義」の実現に向け、職業訓練など「人への投資」を倍増させると明言している。社会保障費の増加が続く中、防衛費と合わせ、こちらも財源の確保が焦点となる。
首相の自民党総裁任期は、衆院議員が任期満了を迎える前年の2024年9月までだ。首相周辺は「総裁選までの2年間の実績が重要になる」と語る。総裁選前に衆院解散に踏み切り、衆院選勝利で総裁再選につなげる戦略も取りざたされる。
一方、外交では、ウクライナ問題で米欧諸国との連携を引き続き強化する必要がある。来年5月に広島市で主催する先進7か国首脳会議(G7サミット)でも、力による現状変更への一致した対応が主要なテーマになりそうだ。
隣国の中国、韓国との溝は深く、首相就任後、対面の首脳会談は行われていない。日中関係は今年9月、国交正常化50周年を迎えるが、沖縄県の尖閣諸島周辺では中国海警局の船による領海侵入が常態化している。
被爆地・広島選出の首相は、ライフワークである核軍縮の前進に向けた動きを活発化させる。来月1日には、米ニューヨークで開幕する核拡散防止条約(NPT)再検討会議に日本の首相として初めて出席する。