カズ・ワンの沈没事故では、事故当日の4月23日に「ヘリじゃないと間に合わない」「船首浸水。沈んでいる」といった救助要請が寄せられていた。1管が産経新聞の情報公開請求に対し開示した118番通報の記録からは、当時の緊迫した様子が伝わってくる。
「アマ無線で『沈みそうだ』と言ってきた。知床遊覧船のカズ・ワン。乗客はいる。カシュニの滝あたり」
最初の通報は午後1時13分、カズ・ワンと無線交信した同業他社からのSOSだった。カズ・ワンは午前10時ごろ、斜里町のウトロ港から出航し、知床岬までの往復3時間のコースを航行中。港の北東約27キロに位置する「カシュニの滝」付近で異常事態に直面した。
5分後の同1時18分、今度はカズ・ワンから118番通報が入る。「船首浸水。沈んでいる。バッテリーダメ。エンジン使えない」。すでに航行不能に陥っていたことが分かる。
カズワンには乗員2人のほか24人の乗客がいたが、118番通報ではなぜか「乗客10人くらい」と報告していた。事故後、豊田徳幸(のりゆき)船長が所持していた携帯電話は、航路上の大半で圏外だったことが判明。この時の通報も乗客の携帯電話から発信されていた。
「カズ・ワンはどうなった? 漁船は出られないと言われた」。同1時47分、知床遊覧船の関係者からの通報。「ヘリじゃないと間に合わない。沈む」と状況が切迫していることを訴える内容で、焦燥感を募らせている様子がうかがえる。
同2時16分、4回目の通報も同社関係者から。乗船者の正確な人数と全員がライフジャケットを着用していることを伝えた上で「繰り返し携帯に架電するも連絡取れず」と報告した。
カズ・ワンは4月29日、カシュニの滝から西北西約1キロの海底で発見された。
(大竹直樹)