福井県北部で7月以降、海水浴客やダイバーがイルカにかまれる被害が相次いでいる。イルカは雄1頭で、主に暖かい海にすむミナミハンドウイルカとみられている。海水浴場ではイルカが嫌がる超音波発信装置を沖に浮かぶブイにつけるなど対策を取り、「かわいくても危険。近づかないで」と呼びかけている。(佐藤祐介、荒田憲助)
「イルカが出たら静かに海から上がってください」。福井市中心部から西約20キロの
越廼
(こしの)海水浴場(福井市蒲生町)。海の家を営む男性(71)は7月26日、海水浴客に声をかけて回った。遠浅で家族連れに人気の海だ。
男性によると、イルカは6月頃から姿を見せ、7月9日の海開き以降は海水浴客が大勢いる浅瀬に頻繁に来るようになった。24日には海水浴客が手をかまれて救急搬送されるなど2件の被害報告が市にあった。
男性は「40年以上ここで営んでいるが、こんなに人の近くにイルカが来たことはない」と驚く。
イルカは4月以降、越廼海水浴場から北十数キロの漁港などで目撃されるようになり、6月頃からは近くの
鷹巣
(たかす)海水浴場(福井市浜住町)にも出現。SNS上で「イルカに会える」と話題にもなった。しかし7月上旬の海水浴シーズンに入ると被害が目立つように。
鷹巣海水浴場では29日、男性2人が手をかまれて出血し救急搬送。遊泳が一時禁止になった。孫娘らと来ていた岐阜県の女性(58)は「あ、イルカ」という声で背びれに気付いた。孫娘の手を引いて岸に上がったが、触ろうと近寄る人もいた。直後、男性がかまれて水中に引き込まれ、溺れそうになるのを目撃したという。
福井市などによると、2か所の海水浴場でイルカにかまれたり、ぶつかられたりした事例は10件以上。両海水浴場では超音波発信装置を海に設置し、越廼海水浴場では「イルカに絶対に触らないで」と呼びかける看板も掲示した。
隣の越前町ではダイバーが水中でかまれたり、追いかけられたりした。同町のダイビングインストラクター中瀬保幸さん(60)は海岸近くに戻ってきた時にイルカに遭遇。体をぶつけてくるため逃げたが、「5分近く追い回され、怖かった」と話した。
目撃情報からイルカはミナミハンドウイルカとみられている。海外ではオーストラリア、国内では奄美大島や伊豆諸島などの温暖な海に多く生息している。
近年は能登島(石川県七尾市)周辺にも群れが定着していることがわかっていて、三重大の吉岡基教授(海生哺乳類学)は熊本県の天草地方にいた群れの一部が移動したとみている。「海流や水温の変化に伴って生息範囲が変わることがある」とし、群れからはぐれた個体が沿岸にすみつくこともあるという。
福井県坂井市の越前松島水族館の松原亮一副館長によると、福井で目撃されているイルカは雄の同一の1頭。ひれの形や傷の位置などから、能登半島先端の石川県珠洲市の海岸に2020年夏から姿を現し、住民らから「すずちゃん」の愛称で親しまれた個体の可能性があるとみている。
他の地域でも、三重県尾鷲市の人工海水浴場で20、21年とミナミハンドウイルカが定着していることが確認され、遊泳が禁止された。
ミナミハンドウイルカは好奇心が旺盛という。イルカの歯は魚などを捕らえて逃がさないように全てとがっている。福井のイルカは体長約2メートル、体重は200キロ近いとみられ、水中に引き込む力はかなり強い。
松原副館長は「万が一、人命に関わる事態が発生すれば、イルカの駆除や海水浴場の閉鎖につながりかねない。イルカのほうから接触してくるなど人への執着が強い様子なので、姿を見かけたら人が海から上がることで共存を図ってほしい」と話している。