「貨物船の存在見落とし」 海自潜水艦衝突事故 運輸安全委が報告書

海上自衛隊の潜水艦「そうりゅう」が2021年2月、高知県沖で訓練中に民間貨物船と衝突した事故で、国の運輸安全委員会は25日、事故原因などについての調査報告書を公表した。潜航中だったそうりゅうは、音で船舶などのいる方位を把握するソナー(水中音波探知機)で周囲を確認していたが、貨物船の存在を見落としていたと結論づけた。早い段階で航走音を確認できなかったほか、ソナーの画面上で貨物船のいる方位の推移を示す線(方位線)が別の船の方位線と重なるように表示されたことなどが背景にあるという。
運輸安全委は25日、ソナーで収集した情報を集約して複数の乗組員で再確認する監視体制の構築などを求める意見を浜田靖一防衛相に書面で提出した。
この事故を受け、防衛省も保科俊朗・海上幕僚監部監察官を委員長とする調査委員会を立ち上げ、事故原因などを調査している。9月中にも調査結果や再発防止策が公表される見込みで、おおむね運輸安全委の調査報告書の内容に沿ったものになるとみられる。
今回の調査報告書公表を受け、保科監察官は25日、「皆様に多大なご心配をおかけした。大変申し訳なく思っている」と述べ、事故について改めて陳謝した。
事故は21年2月8日午前11時ごろ、高知県足摺(あしずり)岬沖で発生した。艦長ら約90人が乗り込んでいたそうりゅう(基準排水量2950トン)が訓練中、香港船籍の貨物船「オーシャン アルテミス」(総トン数約5万トン)に衝突。そうりゅうの乗組員3人が負傷した。
報告書によると、そうりゅうは当時、潜望鏡の一部を海面上に出す「露頂」が可能な深さまで浮上しようとしながら航行中だった。このためソナーで周囲を確認し、「オーシャン アルテミス」とは別の船の存在を探知したが、安全確保に十分な距離があると判断した。一方、「オーシャン アルテミス」の存在を示す方位線については、航走音が聞こえないなどの理由で、ソナーを担当していた当直員長は探知操作をせず、艦長らも船舶以外の音と解釈したという。
その後、そうりゅうに向かってくる「オーシャン アルテミス」の方位線と、離れていく別の船の方位線は、重なるような形でソナーに表示された。当直員長はこの方位からの音に変化があったことに気づいたが、「緊急性や重大性のある状況変化ではない」として艦長らに報告しなかった。運輸安全委はこうした経緯から、そうりゅうが「オーシャン アルテミス」の存在を見落としたまま、露頂に向けて上昇しながら航行を続けたために事故が起きたと認定した。
また運輸安全委は、そうりゅうが船体の損傷などで通信が困難となり、海上保安庁への通報が事故発生から約3時間後になったことにも言及。「衛星携帯電話を備え付けるなど不測の事態を想定した体制構築が必要」と指摘した。
事故を巡っては、第5管区海上保安本部が21年9月、事故当時の艦長を業務上過失往来危険容疑などで書類送検した。【木下翔太郎、内橋寿明】