全国の大学食堂に食材を納める「大学生協事業連合」(東京都杉並区)が、「廃棄を防ぐため」として冷凍鶏肉の賞味期限を独自の判断で4か月延ばし、各地の学食に納入していたことがわかった。学食の利用者には伝えておらず、専門家は「消費者軽視の姿勢は問題だ」と批判。杉並区の保健所も調査を始めた。(杉本要、渋谷功太郎)
健康被害なし
「肉がパサパサして風味も落ちている」。東日本の学食で働く女性は昨年11月頃、冷凍鶏肉を調理して試食した際に違和感を感じた。同連合が納めた鶏肉だった。
同連合によると、延長したのは大手食品メーカーのグループ企業が輸入した冷凍鶏肉約9万袋。コロナ禍に伴う学食の休業などで期限が迫っていた在庫品だった。昨年11月以降に主に東日本の学食で学生らに提供されたが、健康被害は確認されていないという。
科学的根拠
弁当などの傷みやすい食品が対象で、安全に食べられる期限を示す消費期限と異なり、賞味期限は「おいしく食べられる期限」を指す。消費者庁によると、賞味期限の延長自体は違法ではないが、輸入食品の場合は輸入業者が責任を持つ必要があると定めており、設定には細菌検査などの「科学的根拠」がいるという。
同連合は延長時、メーカー側から提供された過去の検査データをもとに判断し、事前に相談もしたと説明している。ただ、検査からは最長で約1年が過ぎていて、メーカーも取材に「詳細を確認中だが、販売後に賞味期限の延長を了承することはない」と否定している。
さらに、同連合は同じ時期に別の業者から仕入れた冷凍野菜の賞味期限も延ばしていたが、このときは再度の検査を行っていた。担当者は「メーカー側の検査データ上、安全な範囲内で期限を延長したので問題ないと考えているが、再検査をしなかったのは反省点かもしれない」と話している。
これに対し、学食で働く女性は延長を知り、「いったん決めた期限が黙って延長されたのが疑問だ」とし、「実際に口にした学生らに丁寧に説明して理解を得るべきだった」と憤る。
食品の表示問題に詳しい実践女子大の田島真・名誉教授の話「消費者に知らせずに賞味期限を延長することは、法令に違反しなくてもモラルの観点から大きな問題がある。食材廃棄の問題には社会の理解も広がりつつあるが、消費者に知らせた上で行うのが前提だ」
長引くコロナ禍で需要の落ち込みが続く飲食関連産業。各企業は食材を廃棄する「食品ロス」の削減に知恵を絞るが、共通するのは事情を包み隠さず説明して客の理解を得る姿勢だ。
ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」などを展開する「ロイヤルホールディングス」(福岡)では2020年度、休業などで賞味期限が切れ、廃棄した食材がコロナ禍前から約2割増えた。傘下の飲食店の一部では売れ残りそうな食品を安く販売するアプリを導入し、店で持ち帰り用容器の提供も始めている。同社は「24年までに食品ロスを16年比で1割減らす」という目標を掲げている。
東京都足立区の食料品店「エコロマルシェ」は、賞味期限が切れているといった「訳あり」食品を問屋などから仕入れて扱う。
店頭に理由を明示した上で最大9割引きにしており、客足は絶えない。尾形祐介代表(48)は「店を訪れて食品ロスの問題に関心を持つ消費者は多い」とし、「大事なのは、正直に伝えて納得してもらうこと」と強調する。
農林水産省などによると、国内で20年度に廃棄された食品は522万トン(推計値)。19年度(570万トン)から8%減り、12年度の調査開始以降で最少となった。
コンビニ店やホテルでの大量廃棄が社会問題化し、削減を図る法律が19年に施行された影響が大きいという。コロナ禍で食品の製造量自体が落ち込んでいることも背景にあるが、農水省の担当者は「多くの食材が捨てられている状況は今も変わっていない」としている。