「第7波」救急要請断るケースも 急増する搬送後の陽性判明

新型コロナウイルスの流行「第7波」で、新規感染者数は高止まり状態が続く。病床使用率も高水準で推移し、患者の搬送先が決まらない救急搬送困難事案が問題になっている。第6波を教訓に全国的に病床を拡大するなどしてきたが、感染者の急増で受け入れが追いつかない。これに加え感染力が強いため、搬送後に陽性が判明し対応に追われるといった新たな課題も浮き彫りになった。
4カ所目で受け入れ「ラッキー」
「5分後に搬送されてきます」。26日午後、京都医療センター(京都市伏見区)の救急外来は受け入れ準備に追われた。
救急車で運ばれてきたのは、38・6度まで発熱した女性。妊娠しており、荒い呼吸をしながら何度もおなかをさする。女性は数カ所の医療機関に連絡したものの断られたため自ら119番したが、すでに3カ所に断られていた。「それでも4カ所目での受け入れはラッキーな方。10件断られた例もあった」と救命救急センター長の寺嶋真理子医師(50)は話す。
コロナ感染を想定し、女性の乗るストレッチャーを外部に空気が逃げない処置室へと誘導。二重に付けた医療用ゴム手袋や青い防護服姿の医師らが、採血や点滴のほか、綿棒で鼻から粘膜を採りPCR検査を実施し、約1時間半後に陽性が判明した。幸い軽症だったことから自宅療養と決まった。
寺嶋医師は「このように搬送後に感染判明するケースが急増していることが、病床逼迫(ひっぱく)や救急搬送困難事案の一因」と説明する。
第6波とは異なる事情
センターでは、第6波までもコロナ用病床は逼迫したが、当時は陽性者の療養先を振り分ける「入院医療コントロールセンター」からの連絡が中心だった。今回は感染者以外に、一般の消防ルートで搬送された脳出血や骨折などの患者が到着後の検査で感染が分かる事例が多い。第6波よりもさらにウイルスの感染力が強いためとみられる。
「最初からコロナ患者と分かるケースでの対応は第6波までのノウハウで対処できるが、コロナは軽症だがほかの疾患が重症という場合は急遽(きゅうきょ)コロナ病床が必要になる」。寺嶋医師は第7波特有の状況を指摘する。
京都医療センターにあるコロナ病床は中等症以上患者向けの約30床。第6波と同数だが、第7波では「もしも…」に対応するため、脳出血などを理由に搬送要請があった患者でも通常病床とコロナ用病床を二重で空けておかざるを得ないのが現状だ。その結果、病床が足りず救急搬送要請を断る事態が起きているという。救命救急科の別の医師は「第7波はこれまでの波と全くの別物。さまざまな可能性を想定しなければならず精神的な負担が大きい」とこぼす。
これまでも新規感染者数のピークより少し遅れて病床逼迫の波が押し寄せてきた。今回も7月上旬から急増し始め、センターでは月末から満床の状態が続くものの、コロナ病床を増やせば、一般の受け入れを制限せざるを得ないとのジレンマも抱える。
背景に増える病床使用率
この日午後2時ごろ、センターには疾患がありながら陽性が判明した新たな患者の受け入れについて別の医療機関から打診があった。特殊な手術が必要な患者で寺嶋医師らが、担当科の医師らとコロナ患者の隔離期間や手術の日程調整と患者の入院などを協議し、最終的に受け入れを決めた。寺嶋医師は「突然、陽性が判明する現状にベッドが足りるか冷や冷やしている。事実上満床になれば救命外来であっても救急要請を断らざるを得ない状況に心が痛む」と嘆いた。
「受け入れ要請が4回以上で現場での滞在時間が30分以上」とされる救急搬送困難事案。総務省消防庁によると、22~28日に東京消防庁や大阪市消防局など全国52の消防で計5097件発生した。
感染「第7波」のピークとなった8~14日の6747件から減少したものの、第7波突入前でおおむね千件台で推移していた6月から急激に増加した。第6波のピークとなった2月14~20日(6064件)と比較しても、第7波のピーク時は約10%増加している。
搬送困難事案が発生する背景には、新型コロナウイルス感染者の急増で医療機関のベッドに空きがないという事情がある。厚生労働省によると、今月24日時点のコロナ用の病床使用率は約62%。第7波直前の6月22日は約10%と、2カ月で6倍まで増加し急激に病床を埋めている。
求められる柔軟性
厚生労働省に新型コロナウイルス対策を助言する専門家組織「アドバイザリーボード」のメンバーで、大東文化大の中島一敏教授(感染症実地疫学)は「第4波」以降の救急搬送困難事案について、「コロナ感染疑い」と「コロナ感染の疑いがない患者(非コロナ)」のケースに分けて分析。オミクロン株が台頭した第6波以降、その様子に変化が見えると指摘する。
中島氏の分析によると、第5波まではコロナ疑いの搬送者で救急搬送困難になる事案が多く、病床逼迫が原因とみられる。これに対し第6波の内訳を見ると、まず非コロナの救急搬送困難例が多発し、後にコロナ疑いが続く形になっていた。
中島氏はこの背景に、第6波以降の医療体制の変化が影響したとみている。オミクロン株の影響で、医療従事者が感染したり濃厚接触者になったりしたことも影を落とした可能性がある。
受け入れ体制の課題も見えている。コロナ患者を受け入れるのも、救急患者を受け入れるのも地域の中核病院が中心だ。「中核の医療機関以外でも幅広くコロナの患者を受け入れ、キャパシティを広げることが大切だ」と中島氏。またコロナ患者の治療についても、従来の「病棟単位」から「病室単位」に切り替えるなど、柔軟な対応が必要と指摘する。
限られた医療資源の中、コロナと一般医療のバランスも問われている。ただ中島氏によると、救急医療体制は地域ごとに違いがあり、一律の対応は難しい。ここで期待されるのが自治体や国の関与だ。中島氏は「自治体は状況に応じたバランスを取り、国は柔軟さを許容し、技術や制度、資金面で支援していくことが重要になる」と話した。(鈴木文也、前原彩希)