安倍晋三・元首相の銃撃事件をきっかけに世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への批判が高まり、発生から2か月たった今も収まる気配がない。家庭連合による被害者の支援団体には、相談が急増し、国も相談窓口を設けるなど対策に乗り出している。元信者らは「ようやく問題に光があたった」と受け止めているが、心の傷が消えず、過去の被害を思い出して苦しんでいる人もいる。(福永正樹)
■自殺未遂も
「つらかったのは、私だけではないと思えた」
関西地方に住む50歳代の元信者の女性は、支援団体「全国統一協会(教会)被害者家族の会」が8月27日に東京都内で開いた相談会に、初めて参加した。
女性が入信したのは、20歳代だった1989年。兄に誘われ、信者の集まりに参加する中、「(創設者の)文鮮明氏こそが天から送られたメシア(救世主)」と信じるようになったという。
合同結婚式で初めて会った韓国人の男性と結婚。日本で暮らし、2人の子どもが生まれた。しかし、少ない収入から献金し、国民健康保険料を払えず、病院に通えないほど困窮した。
夫は激高すると暴力を振るった。うつ病になり、統一教会に相談したが、「献身が足りない」と言われた。自殺未遂を繰り返した末、40歳半ばで暴力に耐えられなくなり、自治体に保護を求めて離婚。被害救済に取り組んでいたキリスト教牧師に相談し、脱会した。
脱会から十数年になる。しかし、「脱会は神を欺く裏切り。地獄に落ちる」と長年聞かされた言葉が頭に浮かび、恐怖に襲われる。この2か月で知らなかった家庭連合の問題が報道され、支援団体の存在を知り、「同じ境遇の人とつながりたい」と連絡したという。
家族の会には事件後、約200件の相談が寄せられ、東京での相談会には元信者ら約30人が集まった。女性は「両親は亡くなり、誰にも相談できず、孤独だった。好きな人と結婚できなかった人生は取り戻せず、心の傷は一生残る。国は厳しく対応してほしい」と訴える。
■「いつも金の話」
事件で逮捕された山上徹也容疑者(41)は、家庭連合への恨みから、同連合とつながりがあると思った安倍氏を狙った、と供述。母親の献金額が1億円に上ることが明らかになった。
埼玉県の60歳代の女性は事件を機に、脱会を決意した。20年前の入信後、「先祖が苦しんでいる」と言われて今に至るまで献金を求められてきた。家族の汚れを浄化するためとして1個8万円する水晶を家族分の7個買わされたこともある。
家庭連合は事件後の記者会見で、霊感商法で信者が逮捕された事件を機に、2009年にコンプライアンス宣言を出した後、「高額な献金が行われないよう努力してきた」と説明している。
しかし、女性は「統一教会はいつも金の話ばかり。宣言後も体質は変わっていない。もともと不信感があったが、会見を見てもう脱会しようと思った」と言う。
家庭連合を巡っては、政治との関係にも注目が集まり、自民党は8日、接点があった党所属国会議員が179人に上ったとの調査結果を公表した。
女性は、過去の選挙で家庭連合から特定の候補者への投票を求められたといい、「政治との関係は信者ならみな知っていた。政治家は言い逃れ、絶縁すると言っているが、社会の関心が薄れれば元に戻るのでは」と語った。
■2世の思い
中国地方に住む30歳代の女性は、信者の両親を持つ「宗教2世」だ。信仰を強制され、恋愛も禁止され、「自分で何も選択できない人生だった」と振り返る。
事件後、国は救済に乗り出し、今月5日に設置した合同電話窓口には初日に155件の相談が寄せられた。女性も電話をし、弁護士を紹介されたという。
「やっと私たちに目を向けてくれた」と期待するが、過去の記憶がよみがえり、苦しい思いもしている。
「統一教会という言葉を聞くだけで、
動悸
(どうき)がする。どうしたって自分の人生は取り戻せない」と言葉少なに語った。
北海道大の桜井義秀教授(宗教社会学)は「元信者らの被害は経済面だけでなく、精神面も大きい。10年信者だった人は、回復に10年以上かかるとも言われている」と指摘。「国が被害の実態を明らかにし、元信者らの回復を長期的に支えていくことが必要だ」と強調した。