ロシアによるウクライナ侵攻が始まってもうすぐ7カ月。侵攻開始直後、ウクライナからの避難者の支援に乗り出して注目を集めたロシア人親子の飲食店を覚えているだろうか。戦争の終わりが見えない中、今の心境を聞こうと、久しぶりにお店を訪ねた。【柴田智弘】
8月下旬、千葉市中央区にあるロシア料理店「マトリョーシカ」を訪れると、店内はがらんとしていた。「こんなに長くなるとは思わなかった」。母親と一緒に店を切り盛りするロシア人のステッツク・ダイアナさん(21)はつぶやいた。
開戦直後の3~4月はウクライナからの避難者を支援していることが注目され、応援の気持ちで来店してくれる客が増えた。だが、最近はそうした来客もめっきり減り、経営は厳しさを増している。
一方で誹謗(ひぼう)中傷は侵攻開始からずっと続いている。
7月には「人殺しがなぜ日本で店をやっているのだ」と脅しのような匿名電話があった。月に1度開催してきたウクライナ人歌手のミニコンサートも中止せざるを得なかった。出演していた歌手のSNS(ネット交流サービス)に「ロシアの店で歌うな」という書き込みがあったからだ。
それでもウクライナに対する支援をやめる気はないという。ダイアナさんの祖父はウクライナ人。母国のロシアと並び、やはり特別な思い入れがある。
経営が苦しい中、ウクライナ人の避難者2人をスタッフとして雇用している。行政手続きなどに必要な書類作りの手伝いも続ける。
3歳の娘と避難して来たイェルマク・アリーナさん(29)も支援を受けた一人だ。
侵攻直後に首都キーウ(キエフ)を脱出し、西へ約60キロの町に移った。しかし、そこでも爆撃が始まったため、八千代市に住む姉を頼り、ポーランド経由で4月末に来日した。
マトリョーシカが避難者を支援していることを聞きつけ、生活物資を無償で提供してもらった。この縁で、困ったことがあれば、今もダイアナさんに相談する。来日後、日本人を含めて多くの人が手を差し伸べてくれたことに感謝している。
一方、慣れない生活への不安はまだある。娘の将来のことを考えると幼稚園や保育園で教育を受けてほしいが、家から近い公立幼稚園には空きがないと言われた。仕事を始めれば保育園に行かせることができるが、まだ日本語が上手に話せないため、就職は難しい。
マトリョーシカでは、従業員をこれ以上増やす余裕はない。「日本に避難してきた人は今も大変な思いをして暮らしている」とダイアナさんは訴える。
2人は「早く戦争が終わってほしい」と口をそろえた。ただ、現状では早期終結は難しいようにも見える。今も増え続ける避難者の支援、誹謗中傷や差別への対策――。日本に住む人ができることを考え続けたい。
県内56世帯90人、県が見舞金支給 スマホ提供、日本語教室も
県国際課によると、県内には21日時点で56世帯90人のウクライナ人が避難している。県は10世帯23人に県営住宅を無償提供し、これまで55世帯に計550万円の見舞金を支給した。児童・生徒9人を県内の小中学校で受け入れ、県内6カ所で自治体が日本語教室を開くなど、教育や日本語学習支援も行われている。
また、県行政書士会が在留資格変更手続きなどを手伝っているほか、ソフトバンクによるスマートフォンの無償提供、食品販売会社などが実施しているプロジェクト「WeSupport」による食料品の無償提供、通信販売会社「QVCジャパン」による衣料品の無償提供なども実施されている。【石川勝義】