寸断された集落、募る冬の不安 健康も食料も…秩父県道土砂崩れ

埼玉県秩父市中津川の県道が13日に寸断された土砂崩れからまもなく半月。中津川集落の住民は県道の復旧を心待ちにするが、その見通しは伝わってこない。記者が山間の林道を通って集落を訪ねると、高齢者は健康面や冬の到来に不安を募らせていた。【山田研】
荒川支流の中津川と尾根の間を走る道路沿いの集落。22日、その一角にある、かつての民宿に住民女性4人が訪れていた。家主の山中進さん(73)は秩父市議を今春引退した後、体調を崩して市内中心部で暮らす。日ごろは無人だが、山中さんは土砂崩れ後、初めて帰宅。あらかじめ電話で「注文」を聞いて買った4軒分の品を林道を通って乗用車で運び、手渡した。
危険な林道「『来て』と言えない」
関口きえ子さん(85)が頼んだ品の一つは豚の厚切り肉10枚。夫は高齢者向け施設に入っており、独り暮らしにしては多い。「こういう山の人はどこも、何があるかわからないからお米やイモはある程度蓄えておくんですよ。でも、生ものはそうはいかない」。豚肉はみそ漬けにして冷蔵庫に入れ、保存食にするという。
「簡単に頼めないから、蓄えておかないと」と関口さん。車の運転はできない。集落外に出た子どもがいるが、「こっちの道(林道)は危ないし、通ったことがないから『来て』とは言えない」。
記者は林道「金山志賀坂線」を経由して集落入りした。緊急車両や住民らだけが通行できることになっているので、事前に管理する県の担当部署に通行することを伝えていた。急カーブが続く峠道は所々舗装がなく、ガードレールが谷側に倒れた区間もあった。「紅葉の美しさは秩父随一」とも言われる途中の峠「八丁トンネル」前後は午前8時台でも深い霧が谷を埋め、見通しが悪い。元民宿までの約20キロに1時間以上要した。
林道経由で診療所のかかりつけ医が訪れ、市大滝総合支所職員や生協、プロパンガス会社も必要品を持ってきてくれるようになった。しかし、高齢者が集落から「出る」のは容易でない。関口さんは車酔いを心配して同乗もためらう。山中さんは「救急ならヘリコプターを呼ぶしかない」と話す。
よぎる集団移転「情報がない」
ある男性住民は、10戸あまりの集落で4人だけという運転免許所持者の一人。鼻にチューブをつけ、部屋では電動の器具から送られる酸素を吸う。停電や運転時に携行用酸素ボンベが欠かせない。予備のボンベは土砂崩れ後に総合支所が用意した。妻は2カ月に1回、市中心部の眼科に通う。県道経由なら男性の運転で往復できたが、時間のかかる林道経由となるとボンベの予備が必要だ。妻の通院は「(集落外に住む)息子が連れて行ってくれることになっている」が、二人とも健康の不安は拭えない。「今からちょっと心配です」と妻は吐露した。
夫妻は「一気に冷えた」と21日からこたつを使う。「雪になったら(林道は)通れないから、完全な孤立になる。冬になるまでに(県道が)通れればいいんですけど」と妻は願う。
「発生から10日たったのに説明がない。いつになったら通れるのか、管理する県は見通しを示してほしい」との声も聞いた。「(集落外の)町場に集団で移転しなければならないかもしれない」からだ。この住民は「最悪のことに腹を決めなければいけないのに情報がない」と憤った。
帰り道の林道。気がつくと、緑から茶色に変わりだした葉があった。季節は着実に冬へと向かっている。