大手回転ずしチェーン「はま寿司」の営業秘密を不正に入手したなどとして不正競争防止法違反の疑いで逮捕された「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイト(横浜市)の前社長、田辺公己容疑者(46)がはま寿司から転職する直前、はま寿司側と秘密保持に関する誓約書に署名していたことが捜査関係者などへの取材で分かった。職務で知り得た情報を漏らさないことなどを求める内容となっており、警視庁は田辺容疑者が違法性を認識した上で情報を持ち出したとみている。
田辺容疑者は、はま寿司の元役員で2020年11月にカッパ社に移籍し、21年2月には社長に就任した。田辺容疑者は転職前の20年9月30日ごろ、はま寿司の商品原価や取引先に関する営業秘密を不正に入手し、カッパ社内で共有した疑いがある。
捜査関係者などによると、田辺容疑者は同年9月中旬に退職を申告。下旬にははま寿司側が提示した「秘密保持に関する誓約書」に署名した。田辺容疑者がはま寿司のデータを不正入手したのは署名後のことで、誓約書に反する行為との認識があったと警視庁はみている。データはパスワードがなければ開封できない仕組みだった。
警察庁によると全国の営業秘密侵害事件の摘発件数は増加傾向にある。13年には5件だったが、21年は23件に上った。独立行政法人「情報処理推進機構」による20年の調査では、国内企業113社で発生した営業秘密の漏えいのうち「中途退職者によるもの」が36・3%で最多となっており、前回の16年調査から7・7ポイント増加していた。競合他社から転職した社員が営業秘密を持ち出すケースが目立っている。
営業秘密の侵害事件に詳しい湊総合法律事務所の湊信明弁護士は「以前は新卒で就職したら定年退職まで同じ会社に勤めることが当たり前で、転職者が情報を持ち出すリスクは低かった。しかし、近年は人材の流動化が進んでおり、企業も情報を守る意識を持たなくてはいけない」と指摘する。
警視庁は2日、同法の両罰規定を適用し法人のカッパ社を書類送検した。警察庁によると、17~21年に全国の警察が検挙した営業秘密侵害事件約100件のうち、法人を摘発したのは1件だった。
3日に記者会見したカッパ社は、田辺容疑者が社内調査に対し「不正競争防止法に理解がなく、軽率だった」と話していたことを明らかにした。また「入手した情報が商品開発や仕入れ交渉など実際の業務に活用された事実は確認されていない」と説明した。【高井瞳】