「日本一小さな村」の役場がパワハラ問題で揺れている。富山県中新川郡舟橋村の人口は1990年から30年の間に1400人から3000人に倍増。子育てを支援し、富山市のベッドタウンとして発展した。
舟橋村にある越中舟橋駅前の看板
しかしそんな画期的な村の役場で、10年以上にわたる執拗なパワハラが行われていたことが各社メディアで報道されている。調査報告書によると、たった30人の役場職員のうち10名がパワハラ被害に遭っており、この2年の間に4名が退職した。役場内ではパワハラが常態化しており、加害者は複数名いるという。また小さい村ゆえ、親族が村議を務める職員もいる。そしてその職員はパワハラの加害者だ。
◆小さい職場はパワハラが起こりやすい
「加害者は親が議員になってから、パワハラをするようになりました。またその議員は、息子によるパワハラ被害者に対して『退職の理由は別の上司からのパワハラだろう?』と聞いたとか。息子のパワハラは第三者報告書に載っているように周知の事実でした。息子の不祥事を他人のせいにしようとしたのでしょうか。もうひとり、やはり親族が村議を務める職員がいますが、彼もパワハラやセクハラの加害者です」
と語るのは役場関係者だ。権力を盾にしたパワハラが横行している。
産業カウンセラーの佐久間寿美江さんは、「そもそもお役所は保守的な考えになりやすいところ。昭和の価値観が根強く残っていても不思議ではない。また小さい職場だとより関係性が固定化しやすいためパワハラが起こりやすい」と言う。
◆村長は「アットホームな職場だと思っていた」
舟橋村役場
パワハラ報道の際に村長が「アットホームな職場だと思っていた」と発言していることからも、ことの重大さが飲み込めていない様子がうかがえる。舟橋村の場合はそれだけではなく、急激な人口増加により、どんどん村が変わっていき既得権益が失われていくことを一部の旧住民は不快に思い、地方創生担当者やその賛同者に対して執拗なパワハラが行われてきた。
2017年には懇親会の会場で暴行事件があり、警察介入事案となった。このときの被害者は、報道のきっかけとなったパワハラ加害者だ。つまりこの職員は、もともと他の職員によるパワハラ被害者だった。舟橋村役場ではこの暴力行為だけではなく、職員を怒鳴りつける、職員の家に深夜押しかけるなどの精神的なパワハラやプライバシーの侵害も日常的に行われてきた。
◆パワハラにあたる行為とは?
パワハラは知識がなければ、被害者にも加害者にもなり得る。厚生労働省では、パワハラを6つに分類している(パワハラ 6類型)。
(1)身体的な攻撃(暴行・傷害) (2)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言) (3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視) (4)過大な要求 (5)過小な要求 (6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
殴る蹴る、ものを投げるなどの暴力や罵倒だけがパワハラではない。必要以上に長時間だったり同僚の前で叱責して相手の尊厳を傷つけること、到底できない量の仕事を与えるのも、逆に仕事を不当に与えないのもパワハラだ。また業務に関係のないプライベートに立ち入るのもパワハラに当たるので注意が必要だ。
◆労働基準監督署に相談することも選択に
佐久間寿美江さん。キャリアコンサルタント、産業カウンセラー
舟橋村役場の職員は、上記のようなパワハラに10年以上も耐えてこなければならなかった。その理由のひとつは、古越邦夫元村長など上司の非対応だ。相談しても「あいつがそんなことをするはずがない」などと言われてもみ消されてしまったと役場元職員は訴える。前出の佐久間さんは、
「パワハラを放置すると法的責任が生じます。労働契約法第5条に職場環境配慮義務というのがあって、会社には社員が安全、快適な環境で働けるように配慮する義務があるんです。したがって、会社がパワハラを放置するなど適切な対応を怠れば、この義務に違反するものとして、民法第415条の債務不履行、民法第709条の不法行為に該当することになります。
また、会社は、自社の社員によるパワハラ(不法行為)について、民法第715条の使用者責任を負うこともあります。そのため、これらに該当した場合、被害者へ損害賠償責任(義務)などを負うことになるのです」
という。それでも舟橋村役場のように内部で解決が望めない場合は、労働基準監督署に相談するとよい。「もしくは都道府県の労働局の雇用・均等室でも対応してくれるはず」(佐久間さん)とも。
◆パワハラ問題を放置するとどうなる?
パワハラで問題になるのは、暴力や誹謗中傷と行ったあからさまなものよりも、加害者は指導のつもりだったというような、グレーゾーンだ。昭和の時代なら許されてきたことが、今は大きな問題ということも少なくない。小さな組織では自浄作用が働かない場合もあるため、外部に相談するシステムが整えられている。「おかしい」と思ったらぜひ活用して欲しい。
舟橋村の場合、役場内で防止に取り組まなかったことがパワハラを増長させたと言える。職場の問題は「これからも一緒に働いていくのだから波風立てないほうがいい」「自分が我慢すればいい」という問題ではない。
「パワハラって見ていても気持ちのいいものじゃないですよね。自分もいつされるかわからないという恐怖もあり、組織の心理的安全性が低くなります。決して1人だけの問題ではないんです。パワハラを受け入れ続けることで、失われていく大切なものもあります。『何を言っても無駄だ』という諦めムードが蔓延すると、改善はおろか新しい挑戦もしなくなり、組織としての生産性が上がりません。
何より人は無条件に大切にされるべきだという基本的人権が傷つけられ、放置していると自分を大切にできなくなるんです。これが高じると他人に対して卑屈になり劣等感を抱いたり、素直にものごとを受け入れられなくなってトラブルを起こしやすくなります。結果的にメンタルを病むことにも。自分だけではなく、周囲や家族にも影響が出ます」(佐久間さん)
◆村民のために一刻も早い解決を
舟橋小学校
人から大切にされないと、人のことも大切にできなくなる。自分がやられたように人に辛辣になってしまうものだ。他人に対して卑屈になったり、劣等感に苛まれてものごとを素直に受け取れなくなったりする。追い詰められて自死を選んでしまうこともある。
「被害を申告することで組織も健全になっていきますし、本来得られるはずの当たり前の幸せややりがいを受け取れるようになります。自分も自尊心を取り戻せるんです。証拠があると紛争解決もスムーズになりますので、録画や録音、日記などの記録をつけること、あなたの話を聴いて一緒に考えてくれる味方を見つけてください」(佐久間さん)
今回の騒動を受けて、舟橋村議会は9月に古越村長の不信任決議を全会一致で可決、村長は議会を即日解散した。しかし10月18日に告示された村議選は、定数7人に対し、同数が立候補したため全員が無投票当選。古越村長本人は否定しているが、失職は避けられない状況となった。パワハラ問題は根深さがうかがえるこの騒動、村民のために一刻も早い解決を望みたい。
<取材・文/熊田リキ>
各種編集を経てフリーライターに。生きにくい人たちが少しでも減ることを願い、社会問題を取り上げた記事をメインに執筆している