王将社長射殺、容疑者絞り込んだ科学捜査の〝実力〟

中華料理チェーン「餃子の王将」を展開する王将フードサービス前社長、大東(おおひがし)隆行さん=当時(72)=が射殺された事件で、殺人などの疑いで逮捕された特定危険指定暴力団工藤会系組幹部、田中幸雄容疑者(56)の勾留期限が18日に迫る。京都府警と福岡県警の合同捜査本部は詰めの捜査を進めるが、容疑者は黙秘を続け、立証の柱となる直接証拠は乏しい。そんな中、容疑者の絞り込みや状況証拠の補強手段として、向上する鑑定技術の存在が注目される。
容疑者浮上のきっかけは、事件現場に落ちていたたばこの吸い殻から検出されたDNA型が、田中容疑者のものと一致したことだ。ただ、偽装工作で第三者が持ち込んだ可能性を排除できず、府警はたばこの燃焼状況について専門家に鑑定を依頼。現場で消されたと考えて矛盾がないとの鑑定結果などから逮捕に踏み切った。捜査幹部は「事件当日の(オートバイで現場を行き来する)防犯カメラ映像に加え、吸い殻の鑑定結果が証拠の核になる」と強調する。
警察から科学鑑定の依頼も受ける民間鑑定機関、法科学鑑定研究所(東京)の山崎昭代表によると、たばこの鑑定では、たばこに含まれた水の成分や形状、紙に浮き出るタールの模様といった特徴から、たばこの火が水で消えたのか、足で踏んで消されたのか、どのような状態の路面に捨てられたのかを推定する。「何度も再現実験を繰り返し、証拠の価値を高めていったと考えられる」とする。
事件前日には現場周辺の防犯カメラが田中容疑者とみられる人物の姿をとらえており、歩く姿で個人を識別する技術「歩容認証」も一役買ったとみられる。
歩容認証は、映像から歩く姿のシルエットを取り出し、歩幅や腕の振り方、姿勢といった歩き方の〝個性〟を数値化して解析。別の映像の特徴と比較し、同一人物か特定できる技術だ。わずか2歩分の映像でも解析でき、条件によっては99%の精度で識別可能だという。
警察庁科学警察研究所が平成25年に歩容鑑定システムを試験導入。28年には初めて裁判で証拠の一つに採用された。今回の事件について、捜査関係者は「解析技術の向上で暗闇の中に光が見えた」とするが、「あくまで事件前日の話。当日の犯行と結びつける有力な証拠ではない」と語る。
システムを開発・提供した大阪大産業科学研究所の八木康史教授も「現状では決定的な証拠というより、容疑者の絞り込みなどの補助的な役割が大きい」と指摘。一方、人工知能(AI)を用いた深層学習と呼ばれる手法で精度向上も進んでおり、「犯罪捜査での活用も広がるのでは」と期待を込める。