安倍氏銃撃 奈良県警本部長の決意 失地回復へ「良い仕事」重ねる

奈良県警の安枝亮本部長(47)が、毎日新聞のインタビューに応じた。7月に奈良市で起きた安倍晋三元首相の銃撃事件を受け、引責辞任した前本部長の後任として8月に就任。「県警が失った信頼を取り戻すため、一つ一つの良い仕事を積み重ねて行くしかない」と強調した。【吉川雄飛】
小学生の頃に見た刑事ドラマで、弱い立場の人に寄り添い、犯罪者に毅然(きぜん)と向き合う警察の姿に憧れた。国のために働きたいという思いと合わさり、警察庁の門をたたいた。
京都大学で学んだ大学時代は、ちょうどインターネットが世の中に普及し始めた頃だった。コンピューターに関心があった自身もその魅力にはまり、入庁当初は「サイバー犯罪を取り扱いたい」と生活安全企画課への配属を希望していた。
しかし2012年、公安委員会が北九州の暴力団・工藤会を特定危険指定暴力団に指定する業務に携わって以降は、暴力団対策に没頭するように。22年3月からは「課長になれるとすれば、最も希望していた職だった」という警察庁暴力団対策課長を務めていた。
課題は真相解明と警備態勢強化
安倍氏が銃撃されたという報は7月8日午前11時半すぎ、課長室で書類の決裁をしていた時に聞いた。「まさか令和の日本でこんなことが起きるのか」。その後、新たな奈良県警本部長に任命されると知らされた時は「とても重たい任務を背負い、自分でいいのかなと思うこともあった」と重圧を感じる一方、「期待されていることを意気に感じてやるしかない、とも思った」と振り返った。
安倍氏の警護態勢を巡り批判を浴びた奈良県警。その組織を束ねるにあたって特に力を入れたいことに、銃撃事件の真相解明と警備態勢の強化を挙げる。「大切なのは、事件があったからといって職員が萎縮してしまわないことだ」とも語った。
「警察が対処すべき事案は日々絶えず発生する。県民の皆様に対して、そうした一つ一つに良い仕事をして応えていくしかない」。職員が前向きに良い仕事ができるよう、立場を問わず発言できるような環境作りに力を割いているという。
「良い仕事」の例として挙げたのは、特に高齢者が被害に遭いやすい特殊詐欺の対策だ。かつて自身の両親もオレオレ詐欺の被害に遭いかけたことがあるという。金をだまし取られる被害は幸いなかったものの、両親だけでなく自身の心も傷つけられた。「こうした詐欺は単なる財産犯ではなく、未遂でも被害者や家族の心を傷つける。一人でもそんな思いをされる方を減らしたい」
原点にあるのは、子どもの頃に憧れた警察官の姿。「立場の弱い人々が被害を受けるようなことを無くすために、一歩でも前に進めたらいい」。幼い頃からの思いも忘れず、事件に揺れる県警のトップに立つ。
安枝亮(やすえだ・りょう)氏
1975年、堺市生まれ。98年に警察庁に入庁後、在米日本大使館1等書記官や内閣官房内閣参事官などを歴任し、8月30日付で奈良県警本部長に就任した。趣味は読書で、お気に入りは三島由紀夫の長編小説「豊饒の海」シリーズ。県内の散策も始め、作品に登場する大神神社(桜井市)を訪れることができ、感動したという。