YouTuber議員の影響力をまるで侮れない理屈

日本でも国会議員のYouTuberが少しずつ増えてきています(写真:玉木雄一郎氏(左 撮影:尾形文繁)、立花孝志氏(中央 撮影:Motoo Naka/アフロ)、小池晃氏(右 撮影:風間仁一郎))
「国会議員YouTuber」といえば、NHKから国民を守る党(N国党)党首で参議院議員の立花孝志氏が何かと話題である。最近、国民民主党代表で衆議院議員の玉木雄一郎氏と対談した動画が賛否両論を呼んだ。
玉木氏が自身のYouTubeチャンネル「たまきチャンネル」の番組に立花氏を招待し、選挙戦略や「森友問題」などについて1時間半にわたり語り合ったもので、9月13日に1回目、19日に2、3回目をそれぞれ配信した。ちなみに1回目の動画のタイトルは「NHKをぶっ壊す男、登場!」となっている。立花氏が離党した区議への脅迫容疑で、警察から事情聴取を受けた直後だけに、国民民主党の支持者を中心に批判が殺到したのである。
しかし、この炎上騒動ばかりに目を奪われていると、政治とYouTubeをめぐる重要な変化を見落としてしまう。玉木氏がそもそも立花氏との接触を望んでいた理由の1つが、立花氏が「動員力のある人気YouTuber」だったからである。実は、日本でも国会議員のYouTuberが少しずつ増えてきているのだ。
玉木氏は2018年7月に初めてYouTubeチャンネル「たまきチャンネル」を開設した。テレビのニュース番組などで見る堅苦しい様子とは打って変わって、「【国会食レポ】たまき、タピるー」という動画では、スイカ果汁100%ジュースのタピオカトッピングと、タピオカほうじ茶ラテの飲み比べをするなど若者受けを狙った動画をアップしている。
また、説明文に「国会議員としての本来の姿である、街の生の声を直接聞く、ガチ突撃インタビュー!と、国会で議論されているような、難しいことをわかりやすく説明していくチャンネルです」とあるとおり、今年7月の参議院選挙前には、東京・品川区の商店街に繰り出して、お店の人たちに消費増税に対する率直な感想を求めた。
「(消費増税に)徹底的に反対する人がいない」「(野党は)甘いと思っています」などという厳しい言葉に向き合う姿勢を見せた。
2019年3月にYouTuberデビューを果たしたのは、日本共産党中央委員会政策委員長で参議院議員の小池晃氏だ。
チャンネル名はその名もズバリ「YouTuber小池晃」。共産党らしい硬派な作りの「YouTuber小池晃が3分で年金問題を斬る」という動画だけでなく、「Youtuber小池晃が行く 夜までハシゴの旅in赤羽」というぶらり旅的な企画モノもある。
かつての勤務先の病院で一緒に働いていた看護師たちと飲みながら、熱血医師だった頃のエピソードなどを披歴して「庶民目線」をアピールしている。看護師曰く、狭い病室に並んだベッドを飛び越えて、いちばん奥の患者を抱きかかえて心臓マッサージをしたとか。そんな当時の小池氏の行動に若い看護師たちが感動していたという。
最初にアップされた動画「小池晃をYouTuberにしてみた」には、サポーター担当者の発案から始まったという経緯を説明しているが、無党派の若年層へのリーチを意識した取り組みであることは間違いないだろう。
現在「たまきチャンネル」の登録者数は約2万人、「YouTuber小池晃」の登録者数は約6000人。世間で名の知れた国会議員のYouTubeチャンネルの本格的な活用は少数にとどまっているが、今後、YouTubeでオリジナルコンテンツを発信して若者を取り込もうとする動きは加速するかもしれない。
例えば、れいわ新選組の代表である山本太郎氏のYouTubeチャンネル登録者数は、約5万5000人と「たまきチャンネル」の2倍以上だが、前述のタピオカやぶらり旅のようなオリジナルコンテンツはほとんどない。逆に言えば、優秀なブレーンがテコ入れをすれば、驚異的な動員を実現する可能性があるということだ。
さらにもう1人、国会議員YouTuberで忘れてはいけないのは、院内会派みんなの党代表で参議院議員の渡辺喜美氏のイメージチェンジだ。
渡辺氏は2018年12月にYouTubeチャンネルを開設していたが、動画の数は少なく開店休業のような状態がしばらく続いていた。変化が起こったのは2019年8月だ。
YouTubeのコメント欄からの指摘などを受けて、ホワイトボードを用いた講義風の動画を投稿し始めたのである。立花氏のスタイルを踏襲したものだと思われる。テーマは「米中貿易戦争」「終戦の詔勅」「GSOMIA破棄」まで多岐にわたる。現在チャンネル登録者数は約6000人となっている。
このようにまだ政治のYouTube活用の黎明期にあるといえる日本の未来を占ううえで参考になるのがお隣、韓国だ。
国会議員のおよそ7割がYouTuber化しているというから驚く。「YouTube政治」という言葉が新たに生まれたぐらいで、日本などよりもYouTubeの影響力は大きい。中央日報は今年2月8日に興味深い記事を出している。
「YouTube政治」によって「伝統的なエリートが再編」される時期を迎えており、「一定の条件で扇動的で権威主義的なポピュリスト指導者の出現」が予想されるという、李準雄(イ・ジュンウン)ソウル大言論情報学科教授の見解を紹介している。
李教授は、従来の学閥や世襲などをベースにした「伝統的政治エリート」から「疎通型政治エリート」に置き換わる過程にあると主張。疎通型政治エリートとは「魅力、感動、説得力を武器に大衆と直接疎通して政治的動員をする」と述べている。日本では、N国党の立花氏がこれに当てはまるのではないだろうか。
政治家と視聴者が直接結び付くかのような親近感を強みとするYouTubeチャンネルは、街頭演説などとは異なる次元で有権者にアクセスすることを可能にしてしまう「飛び道具」だ。
いわばネット空間で無限に拡散・再生される“辻立ち”であり、持ち前のキャラクターなどを全面に打ち出すことによって、「知り合いや友人のような身近な存在」になれるチャンスが開かれる。そこでは、「感情を揺さぶる物語」を紡ぐことができる人物が優位に立つことになる。
P・W・シンガーとエマーソン・T・ブルッキングは、『「いいね!」戦争 兵器化するソーシャルメディア』(小林由香利訳、NHK出版)で以下の指摘をしている。
シンプルさ、共鳴、目新しさという三つの特徴によって、その「物語」が定着するか失敗に終わるかが決まる。極右の政治指導者や女性の権利を訴える活動家から、リアリティ番組で人気のセレブ、カーダシアン一家まで、誰もがしじゅう「“物語”を支配しろ」というのも当然だ。「物語」を支配することは、誰が英雄で誰が悪党か、何が正しくて何が間違っているか、何が真実で何が虚偽かを観察者に告げる。
楽しい気分の人と一緒にいると楽しくなり、悲しみに沈んでいる人と一緒にいると悲しくなる「情動感染」(emotional contagion)は、物理的に人と接しないソーシャルメディア上でも起こることが近年の研究でわかってきている。とくに「怒りの感情」は「情動感染」を誘発しやすく、これがよくも悪くも「参加型民主主義」に近い動員力を発揮することになる。
つまり、仮に多くの国会議員がYouTubeチャンネルで物語性を重視したコンテンツ制作によって支持者とのつながりを強化すればするほど、全体的には「隣村と話が通じない」といった分断が常態化した部族社会的な状況がもたらされることが容易に想像される。これはすでにネットの言論空間で起こっている「ソーシャルメディアにおける同族化現象」という深刻な事態である。
しかも、個人がそれぞれ見ているタイムライン、ニュースフィード等々により構成される世界像は隔絶しており、お互いが別々の宇宙の住人のごとく感じられる “他者のエイリアン化”がそれを後押しする。これが「YouTube政治」においても繰り返されることが懸念される。
国会議員の大半がYouTuber化した世界は、日本ではまだ現実味がない話に聞こえるかもしれない。だが、わたしたちの日常であるオンラインライフの政治版と考えれば、その極めて高い中毒性と危うい魔力は思い半ばに過ぎるものがあるだろう。