「なぜこんな目に…」遺体に複数のあざ 福島・特養入所者殺害

利用者の尊厳を守ると掲げた介護施設でいったい何があったのか。福島県小野町谷津作の地域密着型特別養護老人ホーム「つつじの里」に入所していた植田タミ子さん(94)が暴行を受け殺害された事件。殺人容疑で逮捕された介護福祉士の富沢伸一容疑者(41)=同町和名田=は容疑を否認しており、遺族は「なぜこんな目に遭わなければならなかったのか」と憤っている。【松本ゆう雅、根本太一、柿沼秀行、尾崎修二】
県警によると、富沢容疑者は10月8~9日の夜間に入所中の植田さんに暴行を加え、殺害したとしている。
つつじの里を運営する社会福祉法人「かがやき福祉会」によると、富沢容疑者は同8日午後4時ごろに夜勤に入り、別の職員と2人体制で全て個室となっている入所者29人の対応に当たった。2時間に一度、各部屋を見回り、富沢容疑者からは9日午前5時ごろに植田さんが亡くなっているのを発見したと担当の看護師に連絡があった。富沢容疑者は「3時に見た時は呼吸が苦しそうだった」とも報告したという。主治医は当時、「老衰」と診断した。
植田さんの長男芳松さん(65)は冷たくなった母を連れ帰った。「遺体を見せてほしい」と県警から連絡が入ったのは翌10日夜だった。横たわる母の服を脱がすと、首や両足などに多数のあざがみつかった。
植田さんは心臓にペースメーカーを埋め込んでいるため、3カ月に1日だけ施設を出て近くの病院を訪れる。新型コロナ禍で、芳松さんは病院の出口で母と面会が許されていた。事件が起きる3日ほど前、手にあざがあるのを見つけたが、「どうしたの」と聞いても何も答えなかったと悔しがる。入浴は週2回と聞いており、芳松さんは「他の職員は気付かなかったのか。母は何のために長生きしてきたのか。施設の説明も聞き、責任を追及したい」と憤る。
取材に応じた福祉会の山田正昭理事長は「申し訳ない」と謝罪した。福祉会によると、施設は19年9月に開設し、同月採用の富沢容疑者は開設当初から勤務。21年4月ごろには担当した入所者にあざがあるのを職員が発見する事案があった。富沢容疑者は当時、「車椅子に乗せる時に力が入ったのかもしれない」と説明したという。福祉会は「事故」として町と県に報告した。
一方、富沢容疑者を知る地元住民からは戸惑いの声が上がった。同じ山あいの集落で暮らす60代男性によると、富沢容疑者は近隣の専門学校を卒業した後、介護関連の仕事に就きながら、実家で家族と暮らしていたという。「消防団員を務めたり、子ども会の運営を手伝ったり、地域のために一生懸命がんばっていた。逮捕は信じられない」と話した。