新型コロナ第8波による医療ひっ迫が一部地域で起きているほか、インフルエンザと新型コロナの同時感染「フルロナ」も増加傾向にある。このようななか、医療機関での新型コロナ抗原検査やPCR検査の診察料などについて、悪質なものも含めた未払いが少なくないという。
※画像はイメージです(以下同じ)
多くのケースワーカーを採用するなど患者に寄り添った医療を目指す「公益財団法人 操風会 岡山旭東病院」の事務部 医事課 主任を務める松坂裕次氏に話を聞いた。
◆コロナ受診者の増加に伴って未払いも増加
まず、新型コロナの抗原検査やPCR検査の診察料などの未払いが本当に発生しているのか。松坂氏に尋ねてみたところ、「岡山旭東病院でも実際に起きていて、そして未払いは、コロナ受診者の増加に伴って上昇する傾向にある」と言う。
「昨年(2021年)7~9月にデルタ株が流行したとき、はじめて未収金(未払い)が増えてきたと感じました。今年(2022年)2月頃、オミクロン株が流行ったときにも未収金は増加傾向にありましたし、この夏は、昨年とは比にならないぐらいでした」
前述の第8波や「フルロナ」による感染者数増加とともに、「未収金についての懸念もある」と、松坂氏は言う。しかし、医療費は受診後に窓口で支払ってから帰るのが一般的。どのような経緯で、未払いが発生するのだろうか。
◆医療費未払いを招く4つのケース
公益財団法人 操風会 岡山旭東病院の外観
松坂氏に話を聞いていくと、未払いが発生するケースは大きく分けて4つあり、誰もが気づかないあいだに「未払いをしてしまう恐れがある」ようだ。
まず1つ目は、新型コロナの検査には「完全無料」と「診察料が必要」な2種類があるという情報が、きちんと行き届いていないということ。
「各自治体が“無症状の人”を対象に期間を決めて実施している抗原検査やPCR検査の検査料は完全無料です。発熱や倦怠感などの症状があり、コロナ感染を疑われる人が医療機関を受診して医師の判断により検査を受ける場合は検査料のみ無料で、医師の診察料や薬などは有料になります(陽性確認後の薬は公費請求可)」
◆医療費未払いを招く2つ目のケースは…
2つ目は、症状があって受診し、医師の指示により検査を受けて陽性が判明した場合でも、診察料が有料なのを知らない人が多いということ。
「“無料となるのは陽性が判明してから”になるため、陰性か陽性かを知る検査段階では“コロナではないため有料”なのです。この2つのケースでは、情報がきちんと行き渡っていないことが原因で、勘違いしている方が多くいらっしゃるということです」と松坂氏は言う。
3つ目は、岡山旭東病院も含め、多くの病院が抗原検査やPCR検査時は医療費の支払いを当日に求めていないこと。患者同士や病院スタッフへの感染リスクを下げるためのこの取り組みも、未払金発生要因のひとつとなっているようだ。
「当日に病院の窓口で会計を求められないから、“すべて無料”だと勘違いされて帰宅してしまうというケースです。コロナの検査を受ける方々にこういった勘違いをさせてしまっているのは、医療機関である我々の責任もあると思います」
◆医療費未払いを招く4つ目のケースは…
また、4つ目のケースとして、コロナで陽性になった人が長い療養期間中に支払いを失念してしまうというパターンもあるとか。岡山旭東病院では対策のため2022年8月から、コロナ検査を受ける人に「各種保険による診察料の目安」を記した用紙を配布するようになった。
岡山旭東病院で配布している「各種保険による診察料の目安」の用紙
「それでもやはり無料だと勘違いしている方もいらっしゃるので、そういった方には督促などもお送りしています。督促を受け取った方から連絡があり、『支払いはないと思っていた』ということも少なくありません」
◆悪質な医療費未払いの実態や割合は?
未払いの多くは、「コロナ検査にかかる費用をすべて無料だと勘違いしているケースがほとんど」だと言う松坂氏だが、やはり「悪質な未払いも実際にある」と言う。では、どのように悪質で、その割合はどの程度なのだろうか。
「当日検査結果を電話でお知らせするときは電話がつながるのですが、その後は音信不通というケースがあります。また、それほど日が経っていないのに電話番号が変わっている、郵送で督促を出すと住所も変わっているというケースもあります」
短期間でのことなので、最初から違う住所を記入していたのかとショックを受けることもあるようだ。こういったケースはコロナが発生した初期に多く、国が感染症対策として打ち出した行動制限に従わず外出し、感染が不安になって検査に来た人に多かったとか。
「悪質なケースというのは目に付きますが、それほど多くはありません。当院の場合、月数百人の発熱患者さんのうちの、ほんの数例あるかないか。全体の数%ほどです。だんだんと減ってきていますし、無料だと勘違いされている方は、連絡をすればきちんと支払いに来てくれます」
◆ずっと医療費を支払わないとどうなる?
公益財団法人 操風会 岡山旭東病院の事務部 医事課 主任を務める松坂裕次氏
勘違いによる未払いの場合は連絡がつけばスムーズに支払ってくれるとのことだったが、勘違いしたフリをし続けて支払わない人も今後は出てくるかもしれない。もし、ずっと診察料や薬代を支払わない場合、どのようになるのだろうか。
「まず、検査に来られた方には、先ほどお話した『各種保険による診察料の目安』をお渡しし、体調がよくなってから診察料などをお支払いに来ていただくようお伝えします。1か月経ってもお支払いがない場合は、電話をかけます。
その後、電話がつながらない場合は定期的に連絡。昼間はお仕事をされている方も多いので、そういう場合は郵送でお知らせすることもあります。こういったことを繰り返してもお支払いがない場合は督促状をお送りし、最終的には病院の顧問弁護士に回収を依頼します」
◆未払いが続けば破綻も「病院も企業と同じ」
未払いがこのまま増えてしまえば人件費や回収にかかる費用などが高騰し、病院経営にも大きなダメージを与えてしまうかもしれない。実情はどうなのか。
「国や自治体などの支援を受けられるのは、国立病院や県立病院、市立病院など。ほかの病院は、一般企業と同じです。患者さんから診療報酬などをいただいて経営しています。当院の未収金は患者さんの一部負担金だけでも年間で数百万円ほどになります。
このまま未収金が増えれば、病院の経営はまわらなくなり、破綻してしまいます。また、支払の催促などが増えると通常業務に支障が出て、円滑な運営は難しくなります。また、職員の負担が増えると退職を希望する人が増える恐れもあり、患者さんへの影響が懸念されます」
◆お金がない人はどうすればいい?
未払いが病院や私たち自身に与える影響が大きいことはわかったが、経済的な理由でやむなく診察料などが支払えない人もいるかもしれない。金銭的に支払いが難しい人は、受診や検査を控えたほうがよいのだろうか。
「いいえ、受診や検査はしていただきたいです。診察料などのお支払いが難しい方は、お持ちの保険証の管理者に、『病院での受診や検査を希望しているが、支払いが難しい』と相談してみてください。たとえば国民健康保険でしたら、各自治体の保険窓口などです。
医療制度のなかには収入に応じて医療費が減額や免除となるケースもあります。当院も含め各医療機関にはケースワーカーが配置され医療を継続して受けられるようさまざまなアドバイスをおこなっています。検査や受診、治療や入院を希望される方は、各病院へ相談してみてください」
◆医師の「応招義務」を定めた法律も
日本には、医師法(昭和23年法律第201号)第19条第1項において、「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」として、医師の「応招義務」を定めた法律もある。金銭的に受診が難しいと感じた場合でも、我慢などせず、まずは各病院に相談してほしい。
年末年始などで人の往来も増えるなか、コロナ第8波やインフルエンザと新型コロナの同時感染「フルロナ」の爆発的な感染が心配されている。私たち一人ひとりが病院に支払うべき料金を理解しておくことが、医療ひっ迫を防ぐ手助けになることは間違いなさそうだ。
<取材・文/夏川夏実>
ワクワクを求めて全国徘徊中。幽霊と宇宙人の存在に怯えながらも、都市伝説には興味津々。さまざまな分野を取材したいと考え、常にネタを探し続けるフリーライター