呼吸不全患者に腸を通じて酸素を補充する「腸呼吸」の治験を、東京医科歯科大発のベンチャー企業が始めたことがわかった。新型コロナウイルス感染などの呼吸不全患者に対し、一時的な症状改善策として使える可能性がある。腸呼吸の治験は世界初で、安全性や有効性が確認できれば、2025年に腸に酸素を投与する医療機器として承認申請し、26年中の実用化を目指すという。
治験を始めたのは、武部貴則・同大教授(幹細胞生物学)が創業した「EVAセラピューティクス」(大阪)。酸素を多く含ませられる液体「パーフルオロカーボン(PFC)」約500ミリ・リットルを肛門に差し込んだチューブから腸内に投与し、血中に酸素を補充できるかを確認する。約1時間後に抜き取る。
昨年12月から、関西の施設で健康な成人男性20~30人に対し、酸素を加えていないPFCを投与し、安全性を確認する治験を始めた。その後、実際に酸素を加えたPFCを健常人に投与する計画。将来的に呼吸不全患者に投与して有効性を調べるという。
PFC自体は、すでに眼科手術などで使われている。同社は、人工呼吸を開始する前の一時的な呼吸補助などとして年1万~2万人への活用を視野に入れる。さらに、救急車内で救急隊員が活用することも目指す。欧米での臨床試験の実施も計画している。
腸の表面には毛細血管が多く、ドジョウなどが腸呼吸できることは知られていた。武部教授は21年5月、低酸素状態にしたマウスやブタに腸呼吸を行わせると、体内の酸素濃度が改善したことを論文で発表した。
現在、新型コロナの重症患者などには人工呼吸器や血液を体外に取り出す体外式膜型人工肺( ECMO (エクモ))を使った治療がある。ただ、操作の難しさや人手の確保が課題で、患者の身体的負担も大きい。武部教授は「腸呼吸は患者、医療従事者双方の負担が減るうえ、肺に負担をかけないため、回復が早くなる可能性がある」と語る。
日本ECMOnetの竹田 晋浩 (しんひろ) 理事長の話 「人工呼吸器による回復が難しいケースでの呼吸補助や、窒息事故による救急搬送時の利用などに期待できる。どの程度の効果や即効性があるのか検証が必要だ」