「店舗スタッフには毎日の売り上げノルマを課していない」――。オーダースーツを販売するFABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ、東京都渋谷区)は、「Fit Your Life」をコンセプトに掲げ2012年に設立(設立時の社名はライフスタイルデザイン)。14年にオーダースーツを販売するサービス「FABRIC TOKYO」の前身となる「LaFabrics」を開始した。お客は店舗へ行き、サイズを測定。データはクラウド上に保存され、いつでも参照できる。店頭でスーツを購入する必要はなく、その日に家に帰った後、あるいは数カ月後にでも、いつでも好きなタイミングでサイトから注文できる。
同サービスは開始以来、若年層の男性を中心に支持を拡大。売上高は17年から19年にかけて、3期連続で200%の成長を続けている。店舗の「坪当たり売り上げ」も、同業他社と比較して3倍超を誇る。単に身体情報を測定してスーツをデザインするのではなく、ユーザーの趣味・趣向などのデータも収集し、これまでに集積したパーソナルデータは10万件以上。こうした「ライフスタイルをデザインする」(森代表取締役)モデルがリピーターの獲得にもつながっており、「リピート率は業界平均の1.5~2倍」(同氏)という。
ファブリックトウキョウのこうしたビジネスモデルは「D2C(Direct to Consumer、DTC、DtoC)」と呼ばれるものだ。森氏によると、D2Cはデジタルとデータドリブンによって「最もお客さまと近い距離感でブランド運営ができる」(同氏)とされる。具体的には、自社の商品をECサイトなど自社チャネルで販売するモデルを指す。自社のブランドビジョンなどをユーザーに直接伝えられるだけでなく、ユーザーデータの分析・収集を通して商品開発に生かすこともできる。
海外ではこのD2Cモデルを通して、企業価値が10億ドル以上ある未上場企業を指す「ユニコーン企業」が続々登場しているという。創業から数年で年商が数百億円規模にまで成長する企業も多く、ベンチャー企業の新たな潮流となり始めている。
森氏は、D2Cの代表的な例として、米国のマットレス市場を例に挙げた。18年10月、米国のマットレス小売り大手で国内に3000店舗ほどを展開する「Mattress Firm」が破産申請をした。この背景には、D2Cモデルで成長を続けるベンチャー「Casper」の存在があるという。
Casperは14年に設立。商品に10年保証を付けたり、100日間のトライアルを設けたりしてユーザーの購入に関するハードルを下げた。また、ユーザーからのフィードバックを取り入れ、商品の改善サイクルを構築。設立初年度は売り上げ1億円だったのが2年目には100億円、4年目には400億円と急成長を続けている。このように、D2Cモデルはベンチャー企業が“ジャイアントキリング”できる可能性をも秘めているのだ。同氏は「こうしたモデルを生かし、弊社も10年くらいで業界トップクラスになれるはず」と話す。
D2Cを加速させる「Raas」
9月26日の記者会見では、「D2Cの先へ」と称し、新たなビジネスモデルも発表された。それが「小売りのサービス化」である「Raas(=Retail as a Service)」だ。森氏はRaaSモデルを展開する企業としてAppleを紹介。AppleはiPhoneというデバイスを基軸に、Apple Pay、Apple Music、AppleCareなどの周辺サービスを展開している。こうした事例を参考にファブリックトウキョウでは、サブスクリプションとD2Cを組み合わせたサービス「FABRIC TOKYO 100」を開始する。
同サービスは、月額398円(税込)で、料金は10月以降も変わらず、ユーザーの抱えるビジネスウェアに関する課題を解決する。第1弾として、保証・交換・補修といった領域でのサービスを開始。同社の提供するスーツは、オーダーメイドであるが故、「体型の変動があるから買いづらい」「到着するまで実物を見られず、仕上がりに不安がある」といった声が寄せられていた。
これに対応する形で、同サービスでは体型の変化によるサイズ直しに何回でも対応。また、商品の到着から100日間に限り、作り直しにも対応する。季節を問わず着用するため補修が必要となる頻度が高いスラックスについては、生地代を取らず補修する。他にも「着こなしサポート」や「クリーニング・保管サポート」を順次発表していくという。
森氏はサブスクリプションの展開について「コアユーザーは年に4、5回も商品を購入している。しかし、裏を返せばユーザーとの接点が年にそれしかないことになる。もっと接点を増やしたいと考えた」と話す。サブスクリプションを導入するも、収益化できずに撤退する企業も少なくないが、「苦戦している企業は、物流や梱包などのコストに困っているのでは。弊社のサービスでは『モノ』を介在しないため、十分に収益化できると考えている」(同氏)。
働き方、環境にも配慮
サブスクリプションの導入以外にも、RaaSとしてさまざまな業務を展開していく。
10月には「スマートファクトリー」として、縫製工場のIT化を開始予定。昨今、アパレル事業所の減少や、ノウハウの継承不足などにより「過酷な状況」(森氏)にある縫製工場。IT化やデータの可視化を通して、こうした状況を改善する。ユーザーへ商品の製造プロセスを「見える化」することにより、「今、腕の部分を縫っています」「商品を発送しました」などの通知を行うことを想定。「着る方は愛着が湧くし、作り手としても『どんな人が着ているのか』が分かるとモチベーションが向上するはず」と期待を込める。また、納期の短縮効果も見込んでいる。
現時点では生産ラインの一部をIT化しているが、ゆくゆくは工場全体にまで拡大する。最終的には、他の工場へのノウハウ提供といったB2B展開もにらんでいる。
環境問題にも意識が向いている。華々しいアパレル業界の裏では、環境へさまざまな悪影響が及んでいる。同社の発表によると、全世界のアパレル業界において、年間9200万トンの衣類が廃棄されているという。日本だけを切り取っても、着数にして33億着が廃棄されている現状だ。
同社では9月26日から、店舗での洋服の回収を開始。自社、他社の商品を問わず受け付け、リサイクルする。20年にはリサイクルした素材で作ったポリエステル商品の販売を目指している。最終的には、全ての商品をサステナブルな素材で作ることを目標に掲げる。
森氏は「弊社のメインユーザーである男性は、ブランドの乗り換えも少ない傾向にある。ビジネスウェアも、トレンドの影響が少ないジャンル。『売って終わり』ではなく、ユーザーとの関係構築を大事にし、10~30年スパンでつながりを持っていきたい」と話す。20年中には、現在16ある国内店舗を30店にまで増やすだけでなく、海外への出店も予定している。4年連続の200%成長も目標に掲げており、RaaSの成功モデルとなるだろうか。