コロナ禍で自殺者増加、失業者2倍 求められる「人との接点」

令和4年の自殺者数(確定値)が2万2千人に迫り、新型コロナウイルス禍で増加傾向にある実態が14日、明らかになった。目立つのは、失業者など経済的に苦しい層だ。専門家は、コロナ禍を背景に他者との関わりが希薄になったことも要因と指摘している。
失業で住居も失う
厚生労働省が同日に公表した4年のまとめによると、職業別では、失業者が1220人に上り、3年の636人の約2倍になった。年金や雇用保険などで生活している人は6074人で、3年(5001人)から約1千人増えた。
生活困窮者向けに割安で住まいを貸し出す事業を展開するNPO法人「抱樸(ほうぼく)」(福岡県北九州市)の奥田知志理事長は、コロナ禍前から寮付きでの勤務が広がっていたと指摘。その上で、「最近は失業すると、寝泊まりの場所も一気に失うことになるケースが多い。今回の失業者の自殺も、居住の不安定さが重なっているのでは」とみる。
生活の基盤となる住居を得たいという相談件数はコロナ禍前の約3倍に上り、相談者も男女問わず10代から80代まで幅広いという。
運営先の集合住宅などでは、入居者同士が交流する場を設けたり、相談員が常駐して就労支援などに当たる。奥田氏は「孤立と困窮はセット。死にたくなるときは誰にでもあるが、そのとき、隣に誰かがいれば状況は変わる」と、社会的接点の必要性を訴える。
政府も自殺対策の一環として孤立防止を重要視しており、3年12月にはコロナ禍で深刻化した孤独・孤立対策について初の重点計画をまとめている。官民で連携し、24時間の相談体制をさらに整えるほか、地域での交流の場や居場所づくりも推進。4年の改定時は、コロナ収束後も対策を継続する必要があるとした。
若年女性に影響大
今回の自殺統計では、女性の自殺者数の増加傾向が続いていることも明らかになった。
横浜市立大病院の呼吸器内科専門医である堀田信之医師らの研究グループは、コロナ禍の20代女性の自殺率が、コロナ禍前までの数値を基に算出した推計値を約7割上回っていたとする研究結果を報告した。堀田氏は、この世代の女性は雇用の不安定な職に従事していることも多く、コロナ禍で解雇や減給などに陥った割合も高いとみられるとして、「影響を一番強く受けた層であることが示唆される」と説明する。
研究では、失業率の増加と自殺者増に連動性があることも示され、堀田氏は「安定的な雇用の確保も対策として重要になる」と指摘した。(中村翔樹)

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