国内屈指の観光地・京都で、観光公害(オーバーツーリズム)の問題が再燃している。新型コロナウイルスの感染が落ち着いたことで観光客が急増し、買い物や通勤・通学といった市民生活に影響が出ている。大型連休後半を前に、市民の間では困惑が広がっている。(京都総局 岡田優香、浅野榛菜)
左側通行
「左側を通ってください」「京の台所」と呼ばれる錦市場商店街(京都市中京区、約400メートル)では、4月29日からの大型連休中、雑踏事故防止のため、初めて東向きも西向きも左側を通行するよう徹底。日本語と英語、中国語で放送を流し、警備員も配置した。
通路の幅は約3メートルで、店の前で飲食する客がいると、人の流れが滞留。目当ての店にたどり着くのは至難の業で、買い物をあきらめて立ち去る人もいる。29日にだし巻き卵を買いに訪れた京都市伏見区の男性(81)は「歩くのが怖いので、出直します」と話した。干物店の社長は「なじみ客から『今は行きにくい』と言われている」と悩みを吐露する。
通勤・通学に支障
京都市の観光客数は、2019年まで7年連続で5000万人を突破し、住民が市バスに乗れないなどの「観光公害」が問題になった。新型コロナウイルスの流行で観光客は激減したが、昨年10月に水際対策が大幅に緩和されるなどして、再び増加。市観光協会によると市内主要ホテルの今年3月の客室稼働率は78%で、前年同月から32・8ポイント上昇した。コロナ禍前の19年3月の85%に迫る勢いだ。
JR山陰線(嵯峨野線)では、京都駅から嵐山方面に向かう観光客と通勤・通学客が入り交じる平日の混雑が深刻だ。4月中旬からツイッターで「#嵯峨野線」がトレンド入りし、「パンク状態」などと、利用者の悲痛な書き込みが相次ぐ。
沿線の高校に通う女子生徒(16)は「部活帰りに疲れた状態で電車に乗ると満員で、ストレスがたまる」と改善を訴える。
京都市バスも、祇園や清水寺方面に向かう系統が慢性的に混雑しており、市交通局には市民から「バスに乗れない」といった苦情が寄せられているという。
撮影ルール消える
お茶屋や料亭が並ぶ祇園の花見小路通(京都市東山区)周辺では、芸 舞妓 (まいこ)が通ると、外国人観光客らが周りを囲み、スマートフォンで撮影している。住民らでつくる祇園町南側地区協議会は芸舞妓の通行の妨げにならないようにしてほしいなどと周知してきたが、守られなくなっている。
同協議会の関係者は「定着しつつあったマナーがコロナ禍の間にリセットされた」とため息をつく。
サイトで分散観光を呼びかけてきた京都市観光協会の担当者は「コロナ禍前のように多くの中国人観光客が戻れば人出はさらに増える可能性があり、対策の検討を急ぎたい」と話した。
桜美林大の戸崎肇教授(交通・観光政策)の話「コロナ禍で観光への渇望感が高まり、観光公害は以前よりも深刻になる可能性がある。住民専用のバスを運行したり、公共交通の改善に充てるための新たな税を導入したりして、観光客と住民が共存できる仕組みを作るべきだ」