「元気にやってるよ」 砂川5人死傷事故から8年、関係者が誓い

2015年6月、飲酒運転で暴走した車が北海道砂川市で一家5人を死傷させるひき逃げ事故を起こした。事故を契機に飲酒運転撲滅に向けた動きは進んだが、悪質なドライバーの根絶には至っていない。痛ましい事故から6日で8年。「恵たちが受けた苦痛を、私たちが無くしていく。この誓いは忘れずにいるからね」。亡くなった永桶恵さん(当時17歳)の担任だった小田島数幸さん(62)は現場でそっと手を合わせた。【後藤佳怜】
6月3日、前日までの雨で水たまりが残る砂川市の国道12号沿いの歩道に、一人、また一人と花束を手にした若者が現れた。砂川高に通っていた恵さんの同級生だ。事故後は毎年6月に同校元教諭の小田島さんらと現場に集まっている。
「変わらず元気にやってるよ」。20代半ばとなった同級生5人は、じっと目を閉じて恵さんに思いを伝えた。建設業を営む原田玲於さん(25)は「朝一番に登校して勉強する、真面目で優しい子だった。花を手向けることで、多くの人に飲酒運転の重大さが伝われば」と語った。
事故は15年6月6日午後10時34分に起きた。酒に酔った20代(当時)の男2人が運転する車が速度を競い合い、100キロ超のスピードで赤信号を無視して交差点に進入。1台が永桶弘一さん(当時44歳)一家5人が乗った軽ワゴン車に衝突し、約60メートルはじき飛ばした。永桶さん夫妻と長女の恵さんが死亡し、次女(同12歳)が重傷。車外に投げ出された長男昇太さん(同16歳)はもう1台に約1・5キロ引きずられ亡くなった。
恵さんと昇太さんが通っていた砂川高の保健体育科教諭で、当時、恵さんの授業を受け持っていた桂聡さん(55)は、「俺の生徒、殺された」という同僚の衝撃的な一言で事故を知った。詳細を聞き「これは殺人事件だと思った」という。
飲酒運転撲滅だけでなく、命の重さを知り、被害者遺族に寄り添うことの重要性も感じる桂さんは、6月2日に同校で開かれた「交通安全誓いの日」で講話を行った。生徒からは「砂高生は事故を語り継ぐことができる」「飲酒運転は絶対に誰もしないでほしい」といった声が上がった。8年たった今も、「誓い」を受け継ぐ心が紡がれている。

14年7月に小樽市で女性4人が死傷した飲酒ひき逃げ事故や、砂川市の事故を受け、飲酒運転撲滅の機運は高まった。
道や砂川市は15年、飲酒運転を見つけた場合には警察に通報することを努力義務として盛り込んだ条例を相次いで制定。道警は砂川市の事故後、メールで情報提供を受ける「飲酒運転ゼロボックス」を開設した。道警交通指導課の高野敦次席は「電話で通報しにくい人も多いので、選択肢の一つとして設けた」と説明。昨年はゼロボックスからの情報が9件の検挙につながった。
取り組みが実を結び、道内の飲酒運転事故は減少傾向にある。砂川市の事故があった15年は発生161件、死者12人だったが、22年はそれぞれ72件、4人まで減少した。
だが、今年5月に札幌市内でタクシー運転手の男性が道路交通法違反(酒気帯び運転、ひき逃げ)などの容疑で逮捕されるなど、依然として飲酒運転は無くならない。5月末時点の今年の飲酒運転検挙数は昨年の同時期(252件)を上回る296件。新型コロナウイルスに関する行動規制が解除されて繁華街の人通りが戻る中、飲酒運転の「揺り戻し」も懸念される。
道警交通部の柴田靖管理官は「北海道は全国平均より飲酒運転事故の割合が高く、重く受け止めている。砂川の事故などを忘れず、改めて飲酒運転の危険性に気づいてほしい」と呼びかけている。