“兵器”輸出の起訴取り消し 白書に「実績」 警察庁約1年削除せず

軍事転用可能な装置を不正輸出したとして社長らが逮捕・起訴され、約1年の勾留後に起訴が取り消された化学機械製造会社「大川原化工機」(横浜市)を巡り、警察庁が経済安全保障の実績として警察白書に事件について掲載し、同社側が約1年前からウェブ上の記事を削除するよう求めていたことが判明した。同社側は「削除要請を放置している」と批判。警察庁は6日夜、記載を削除した。
事件では、大川原正明社長(74)ら3人が2020年3月、生物兵器の製造に転用可能な噴霧乾燥装置を国の許可を得ずに中国に不正輸出したとして逮捕・起訴された。しかし、東京地検は21年7月30日、生物兵器の製造に転用可能か疑義が生じたとして起訴を取り消した。
警察白書は警察活動を広く国民に理解してもらうことを目的に同庁が毎年発刊している。起訴取り消しの10日前に発刊された「令和3年版」には、経済安全保障の欄で「大量破壊兵器関連物資等の拡散は安全保障上の重大な脅威。違法行為に対する取り締まりを更に徹底する」と記載。具体例として大川原化工機の事件を挙げていた。会社名と社長らの氏名は匿名だった。
削除求めるも、22年11月以降連絡なく
同社側によると、22年4月に警察白書の記載を把握し、同8月にインターネット上に掲載された白書については、同社に関わる部分を削除するよう同庁に求めた。同庁からは同11月に「検討しているのでしばらく時間がほしい」という連絡があったきりだったという。
大川原社長らは違法な逮捕・起訴があったとして国と東京都に賠償を求める訴訟を21年9月に東京地裁に提訴。今年6月の口頭弁論では、警視庁外事1課の男性警部補が証人として出廷し、「大きな事件を挙げて『上に行きたい』という欲が捜査幹部にあったのだと思う。事件は捏造(ねつぞう)だと思う」と証言した。
これを受けて同社側代理人の高田剛弁護士は7月2日、「無実が明らかになった今も警察白書に逮捕実績が誇示されている」とツイッターに投稿。高田弁護士は取材に「警察は名誉侵害を放置した。対応があまりにも遅すぎる」と話した。
警察庁は「対応を検討中だった。状況に鑑み、記載を削除することにした」と説明。削除要請から時間がかかったことについては「削除や修正の方法の検討に時間を要した」と釈明した。同庁刊行の「治安の回顧と展望」にも関連する記述があったが、これについてもウェブから削除したという。【遠藤浩二、松本惇】
遺族「削除の経緯、説明を」
事件では、大川原正明社長らとともに同社顧問の相嶋静夫さん(当時72歳)が逮捕された。相嶋さんは勾留中の2020年10月に胃がんが見つかり、21年2月、被告の立場のまま亡くなった。毎日新聞の取材に応じた相嶋さんの長男(49)は「警察は事件は間違っていたと訂正し、父の名誉を回復してほしい」と訴えていた。
長男が警察白書の記事に気付いたのは22年4月。東京地検が起訴を取り消して8カ月以上がたっていた。事件が警察のアピールに使われていると感じたといい、「警察は有罪、無罪の結果よりも逮捕して白書に載せることがゴールになっているのでは。警察活動の成果として『大川原化工機』が歴史に残ることは許されない」と怒りが湧いた。代理人の高田剛弁護士に連絡してウェブ上の記事の削除に動いてもらったが、警察庁の反応は鈍かった。
長男は、警視庁が父を逮捕していなければ、もっと早く父の体調の変化に気付けていたのではとの思いを抱く。「なぜ捜査を誤ったのか。警察、検察はきちんと受け止めるべきだ。掲載と削除の経緯をしっかりと説明してほしい」。今も警察、検察からの謝罪を求めている。【遠藤浩二】