成田市“マイボトル禁止問題”……地方議会の常識外れの理由は「見当違いの権威主義」?

9月中旬、成田市議会で決算特別委員会が行われたときのこと。会津素子市議(「緑の党 グリーンズジャパン」所属)がいつものようにマイボトルを委員会室に持ち込もうとすると、別の市議に注意された。何のことか分からず、委員会後に市議会事務局に確認をすると、「マイボトルの持ち込みはダメになって、ペットボトルのみになったようですよ」と言うのだ。
当時の驚きを、会津市議はこう語る。
「マイボトルを委員会室に持ち込んで、一体どんな問題があると言うのでしょうか。言うまでもないことですが、ペットボトル飲料のほうが環境への負荷も高い。環境への影響を考えれば、マイボトルはむしろ推奨されるべきなのに」
ルールが作られた場である議会運営委員会に所属する、別の市議に再度確認してもらったところ、「見た目をそろえたほうがいいから、マイボトル持ち込みは禁止」という声があったと聞いた(*)。あまりに世間の感覚と乖離しているのでは――そうブログで問題提起すると、またたく間に「時代錯誤」「ナンセンスだ」と“マイボトル禁止ルール”への批判が挙がった。
なぜ地方議会は一般感覚から乖離するのか?
ひょんなことから地方議会の様子が全国に報じられ、その旧態依然とした様子に有権者から驚きの声が上がる――。これまで幾度となく繰り返されてきた光景だ。
なぜ地方議会では一般社会の感覚から乖離したことが起こるのか? 千葉県我孫子市で市議や市長を務めた経験のある福嶋浩彦・中央学院大教授は「見当はずれの権威主義があるのでは」と話す。
「議論の中身で市民から支持を集めるのが議会の本来の姿ですが、外形的な権威を整えようという意識があるんだと思うんです。『議会は権威のあるところだ』と自分たちで思っちゃっている。
『見た目をそろえたほうがいい』というのも、議会を運営する上で間違った感性ではないでしょうか。議会は少数意見や、多様性を大事にしなければならない場です」(福嶋教授)
「神聖な場所で飲食するとは何事か」
今回問題になったのは委員会室への飲み物の持ち込みだったが、議場への飲み物の持ち込みを一切禁止する地方議会も多い。
「『神聖な場で飲食するとは何事か』という意識から来ているのかもしれません。それにしても、熱中症などの健康問題になりかねないですし、今の時代、世間離れしている感じもしますよね」(福嶋教授)
議員を『先生』と呼ぶことを禁止してみた
我孫子市長を務めた当時、“ローカルルール”の改革を試みたこともあると話す福嶋教授。
「市役所職員が議員を『先生』と呼ぶことを禁止するルールを作りました。幸いなことに、当時は若い市議も多く、反対意見もそう多くありませんでした。市民に地方行政を徹底的にオープンにすると、旧態依然にやっていきたい人たちもそうはいかなくなるんですよね。
地方議会って、ある意味近くて遠い存在だと思うんですよ。国会の中継は見たことはあるけど、地方議会の中継は見たことない人って多いでしょう。でもその距離は、努力すれば近づけることができるはずです」(福嶋教授)
“マイボトル禁止ルール”について問題提起した会津市議は、ルールが決まった会議の議事録を取り寄せ、その詳しい経緯を調べているという。
「世界が環境問題について考えている中で、なぜこのような不可解なルールが決まってしまったのか。引続き調べていきたいと思っています」

*成田市市議会事務局にルールが作られた経緯について問い合わせたところ、以下のような回答があった。
「市議会の委員会室では、過去に『ペットボトルに口をつけて飲むことは良くないのでは』と市民の方から指摘があったことを受け、議員団が用意したペットボトル飲料をコップに注いで飲むことが定着していましたが、新人議員から問い合わせがあったことをきっかけに、今年の6月末に議会運営委員会で話し合いが行われました。その時点で『水筒にはいろいろな形状があるから』と、水筒の持ち込みに否定的な意見も出ました。
8月28日に開かれた委員会の時点では『原則、議員団が用意した飲料をコップに注いで飲む』ということで決まりましたが、水筒の持ち込みの可否への言及はありませんでした。9月下旬に、水筒の持ち込みを注意された議員からの問い合わせがあったので、改めて話し合った結果、『水筒の持ち込みは禁止』という方針が確認されました」
(「文春オンライン」編集部)