「頭をかじられても、何もできなかった」――。秋田県北秋田市鷹巣の市街地で19日に出没したクマによって大けがを負い、現在も入院中の菓子店主の男性(66)が24日、読売新聞の電話取材に応じ、「本当にもう死ぬかもしれないと思った」と恐怖の瞬間を振り返った。県内では24日も計4人がクマに襲われてけがをしており、県警などが警戒を呼びかけている。
男性がクマと遭遇したのは19日午前11時過ぎのこと。自宅裏庭にある車庫のシャッターを開けると、中にクマがいた。
約2メートルの至近距離で「正面を向いていて目が合った。体長1メートル以上と大きく、これは無理だととっさに走って逃げたが、約10メートル先で倒された」。右半身を上にして倒れたところを、クマは覆いかぶさってきた。「『ガウガウ』とすごい声がして牙で頭をかじられた。何もできなかった」。
襲われたのは、わずか1分ぐらいの間だった。クマのすきを見て工房に逃れ、タオルで止血しながら110番した。鏡を見ると「右側の頭皮が10センチ四方くらいめくれ、頭蓋骨が見えていた」という。ドクターヘリで秋田市内の病院に搬送され、現在治療を受けているが、背中や右腕、右わき腹に無数のひっかき傷を負い、顔にも深い傷が残った。
北秋田市の市街地では19日、男性が襲われる前の午前6時40分頃、鷹巣小学校周辺で散歩をしていた80歳代の女性2人がクマに襲われた。午前7時頃には、そこから約800メートル北のバス停で女子高校生が襲われている。このクマが車庫にいたとみられるという。
男性は渓流釣りで山奥に入ることがあり、クマへの警戒は怠っていなかったという。しかし、今回は「家にある狩猟用ナイフやクマよけスプレーを取り出す暇もなかった」と振り返る。「まさか自宅裏庭でクマに襲われるなんて。この秋は異常だ」と話した。
一方、24日も県内でクマによる人身被害が相次いだ。
羽後町足田のゴルフ練習場で午前7時頃、ボールの回収作業をしていた湯沢市の女性(75)がクマ(体長約1メートル)に背後から襲われ、頭や顔から出血するなどの重傷を負った。一緒に回収作業をしていた男性(66)は「夢中で手近にあったカートを押してクマを追い払ったが、女性は血まみれだった」と話した。
ゴルフ練習場は町の施設で、町は「安全確保が難しい」とし、予定を早め、今年度の営業を終了した。
午前7時20分頃には、仙北市田沢湖田沢の住宅敷地内で、ネギを干していた大仙市の男性(75)がクマ(体長約1メートル)と鉢合わせて襲われた。男性は頭や顔面をひっかかれるなどのけがを負った。地元猟友会は同日、現場の裏庭に金属製の箱わなを設置。猟友会員の男性(64)は「近くに栗の木があるので、それを目当てに現れたのでは」と話した。
鹿角市十和田大湯と十和田山根でも午前10時45~50分頃、リンゴ畑とニンニク畑で農作業をしていた、市内に住む73歳の2人の男性が相次いで襲われ、右耳や頭などにけがを負った。
県警地域課によると、クマの人身被害は計57人。
一方、秋田市の市街地にもクマは出没した。秋田東署によると、午前7時10分頃、同市広面の市道で親子とみられるクマ3頭(1頭が体長約1メートル、2頭は約50センチ)が目撃された。現場は秋田大の東側約500メートル。