「移民」と日本人 「クルド人ならもっと安値で」外国人解体業者 脱税の懸念も 複雑な下請けの構図

東京都品川区で9月初め、ビジネスホテルの解体工事をめぐり住民から苦情が相次ぎ、区は請負業者に工事停止を指示した。この騒ぎは「ずさん工事」の事例として一部メディアで報道されたが、背景にある外国人業者の複雑な請負関係や脱税につながりかねない雇用形態などについてはほとんど触れられなかった。工事は日本企業が中国系業者に発注、さらにトルコ系業者に下請けされ、最終的に現場作業したのはトルコの少数民族クルド人たちだった。
責任の押し付け合い
請負業者を所管する埼玉県の調査によると、工事は土地を所有する東京都新宿区の不動産会社が埼玉県川口市の中国系建設会社へ税込み1340万円で発注。この会社が東京都台東区のトルコ人業者へ450万円で下請けに出したという。
同社を経営するトルコ国籍の男性(28)によると、さらに川口市内で解体業を営むクルド人5人に仕事を発注しており、男性は「中国人の会社から工期を急かされ、重機を入れられて危険な工事になった」。
一方、中国系業者は埼玉県の調査に「最近は競争が激しく、この価格でないと請け負えなかった。トルコ人業者があんな危険な工事をするとは思わず、甚大な損害を受けた」と話したという。
発注元の不動産会社は「取材はお断りする」。中国系業者は本社所在地を訪ねたが無人で、名刺の電話番号も通じなかった。区によると、工事は中断後に日本人業者が請け負い、現在も作業中という。
「シャシン、トルナ」
品川区などによると、解体されたビルは幅約5メートルの細長い敷地に建つ高さ約18メートルの6階建て。工期は6月1日~9月末の予定だったが、9月上旬、住民から「現場が危険なことになっている」との通報が相次ぎ、区は即日、工事の停止を指示した。
区が調べたところ、コンクリ片などの廃材が現場付近の歩道をふさぎ、隣接マンションとの境のフェンスは廃材の重みでゆがんでいた。さらに、山積みになった廃材の上で重機が傾きながら動いており、今にも道路側へ倒れそうになっていた。
現場近くの飲食店主(59)によると、作業していたのはTシャツに短パン姿の外国人で、ヘルメットもかぶらず、高所で命綱も付けていなかったという。男性は「道路の廃材を注意しようとしても、『ニホンゴワカラナイ』『シャシン、トルナ』と威嚇された。周りの住民も怖がっていた」と話した。
国土交通省によると、全国の解体業者は約1万8000社あり過去5年で1・5倍に増えた。高度成長期の建築物が建て替え期を迎えた影響とされるが、肉体労働に加えて粉塵被害などもあり、日本人が敬遠する仕事として在留外国人に急速に広まったとされる。
ただ、人手不足は深刻で令和4年度平均の有効求人倍率は全職種の1・31倍に対し解体業は13倍を超える。
中でも川口市に約2千人が集住するクルド人の主な生業になっており、市内には解体資材置き場が集中。トラックの過積載など危険な運転も問題化している。埼玉県の解体業の有効求人倍率は全国平均よりも低い約9倍という。
ある外国人解体業者によると、工事を適正価格で取ろうとすると「クルド人ならもっと安値でやってくれる」と断られることが多いという。
「一人親方」に現金で
今回の規模の工事の場合、元請けの1340万円でも格安とされる。解体業は請負額が500万円未満の場合、都道府県への登録だけで開業できるため、今回の請負額450万円はその基準に合わせた可能性もある。
また、個別の労働者に対しては、雇用関係を結んで賃金を支払うのではなく、「外注」として事実上の下請け扱いにすることが多く、今回もクルド人に対してはそれぞれ外注にしていた。
川口市内でクルド人業者の税務を担当していた税理士関係者によると、給与でなく外注費とすることで、所得税を源泉徴収したり、社会保険や労災に入ったりする必要がなくなるため、相場より安い価格で工事を請け負うことができる。外注された側は「一人親方」などと呼ばれ、便利に使われることが多いという。
本来は、外注された側が確定申告し、国民健康保険などにも加入しなければならないが、この関係者は「ほとんどが現金手渡しのため、何もしていないと思う。難民認定申請中で仮放免者のような不法就労の場合はなおさらではないか」という。
今年6月には川口市議会で、外国人の事業主や個人の税金問題が取り上げられ、「脱税ではないか」との指摘も出た。市側は「事業主から税務資料の提出がないことが多く、課税できていない状況だ」と認めざるを得なかった。